何かを手に入れるためには、何かを犠牲にしなければならない。




黒羽先生に連れて来られたのは、KIDの隠れ家の一つのマンションだった。






何かを手に入れるためには、何かを犠牲にしなければならない。





黒羽先生はハンググライダーで部屋に連れて来てからソファを勧めると、部屋を出て行った。そして、珈琲を淹れて戻って来た。


「はい、工藤」
「ありがとうございます」


そう言って受け取ると、一口飲んだ。身体が温まってほっと一息ついた。
黒羽先生は戻って来た時には、もう私服に着替えていた。
じっと見つめていると、黒羽先生は苦笑して言った。


「何の警戒もなしに飲むんだな。俺は犯罪者なのに」
「先生は俺に危害を加えたりしません。それにKIDをやっていたのには何か理由があるんでしょう」


新一がきっぱりと言うと、黒羽先生は驚いた顔をしてから苦笑した。



「じゃあ、何が聞きたい?言えることは全て話すよ」
「何故、今回予告状を出したんですか?俺の予想が正しければKIDの目的は8年前に終わっているはずです。それとKIDをしていた理由。そして20年以上前に出ていたKIDとの関係です。その頃は先生は子供だった筈です。同一人物ではありえない」


聞きたいことや憶測が、すらすら出てくる。黒羽先生は何故KIDをしているのだろう。知りたい。だって好きな人のことだから…。


快斗はすらすら出てきた質問と予想に苦笑した。何処まで分かってるんだろう。彼は…。


「長くなるよ」
「構いません」


快斗は一度珈琲を飲んでから話し始めた。


「俺の親父は10歳の頃に死んでるんだ。マジックショーの事故で。
凄いマジシャンだったよ。俺は、すごく尊敬してた」


快斗は穏やかな表情でそう言った。どれほどの葛藤があったんだろう。そう言えるようになるのに。


「17の誕生日に俺の部屋に隠し部屋があるのを知ったんだ。それで、親父がKIDだったことを知った。その跡を継いでKIDを続けているとある日宝石を盗んだ時に、強迫されたんだ。『宝石を盗むのを止めないと殺す』って。親父の名前と一緒に」


だから、組織に狙われていたことを知ったのだと快斗は苦笑してそう話した。どうして、そんな哀しい話を笑ってするのだろう。そんな顔しないで欲しい。そんな、辛いことにさえ気づけていないような顔をされたら、どうすればいいかわからない…。
快斗は話を続けた。


「なんでも、その宝石――パンドラって言うんだけど、それを月に翳すと赤く光を放つんだそうだ。それが流す雫を飲むと不老不死になれるんだって。
それで8年前、ようやくパンドラを見つけた。そして、組織も潰したよ。パンドラは砕いて海に流した。これで、こんな馬鹿げた妄想のせいで人が死ぬことがなくなる。知らないかな?8年前大手企業や大物政治家が捕まったの」「知ってます。あれがそうだったんですか?」


黒羽先生はそんな前からずっと独りで重荷に耐えていたんだ。どれだけ辛かっただろう…。なのに笑うんだ。見ているこちらの方が哀しくなる笑顔で。俺には犯罪者だなんて責めることは出来ない。たとえ誰であろうと責めることは赦せない。だって、どれだけのものを背負ってきただろう。罪も苦しみも、全て…。
彼は全てを護るために平穏な生活を捨てて危険と隣り合わせな生活をしていたのだ。


「そこで、怪盗KIDは消えたんだよ。謎を残して。
それで、今回の予告状のことだけど、あれは俺が出したものじゃない。あれは怪盗KIDを…俺を誘き出す為の罠。
組織の残党がいてね。そいつらが出したものなんだ。だから、俺が出て行った訳。
あいつら何するか分からないからな。今頃きっと警察に捕まってるよ…」
「黒羽先生…」


なんて言えばいいのか分からない。ただ、先生が悪い訳じゃないってことだけは強く思った。


「たくさんの人を騙し欺いて来た。俺は嘘つきなただの犯罪者だ。たがら、お前にはふさわしくない…」
「おいっ……今、何て言った」


新一は怒りに震えた。そんなことが聞きたいんじゃなかった。俺が知りたいのは…。


「えっ…?だからたくさんの…」
「そこじゃねえ。その後」
「俺は嘘つきな…」
「そこでもねえ!!」
「お前にはふさわしくない」
「そこだ!!どういう意味だよ!!俺にはふさわしくないって。なんでそんなこと勝手に決めんだよ!!俺は黒羽先生だから好きなんだ。犯罪者だからって関係ねえ!!
先生は優しかったし、それに信念があったから続けたんだろう。それなのに、犯罪者なんて一言で決めつけんな!!そんな…哀しいこと。…黒羽先生は俺のことどう思ってるんだよ」


ぽろぽろと涙を流しながら蒼い澄んだ瞳で見つめてくる。嬉しかった。自分のことでこんなにムキになって哀しんでくれる彼が…。でも、駄目なんだ…。


「俺はね、工藤。最低な奴なんだ。高校の時、KIDをやってて日常とのギャップが苦しかった。いつも偽りの仮面を被ってた…」


ちゃんと聞かなきゃ駄目だと思った。これは、きっと俺たちの関係を変える為に必要なこと。新一は耳を澄ました。


「俺には親友がいてさ。子供の頃からずっと一緒だったんだ。そいつは俺の仮面に直ぐに気づいてぶつかってきてくれた。でも、俺は拒絶したんだ。『お前に関係ないだろ!!』って。その日にそいつは事故にあって意識不明の重体。今でも、目は覚めてない。俺のせいなんだ…」


今でも鮮明に覚えてる…。あの日のことを。俺には、人に好きになってもらう資格なんてないんだ…。
でも、新一にはその人の気持ちがわかった。だから、それをわかって欲しくて言った。


「先生。それは違うよ。その人はそんなこと望んでなんていない。先生に前みたいに笑って欲しかったからその人は先生にぶつかっていったんだ。だから、そんなこと言わないで。先生の本当の気持ち教えて…」
「工藤!!……っ…新一、……好きだ」
「……俺も好き」


快斗は、衝動的に新一を抱き締めて想いを伝えた…。こんな近くにあったんだ。大切なものが…。






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