こんな気持ち、あなたに出会うまで知らなかった。




ぱちん、ぱちんと音が響く。






こんな気持ち、あなたに出会うまで知らなかった。





あれから黒羽先生は今まで通り、普通に接してくれる。
あの告白から一週間経ったある日、新一は黒羽先生に呼ばれて数学準備室に来ていた。
どうやらプリント作成に呼び出されたらしい。



ぱちん、ぱちんとホチキスの音が響く。




その沈黙が少し切ない。やっぱり俺は黒羽先生が好きなのだ。先生に出会うまでこんな気持ち知らなかった。こんな温かくて優しい気持ち。そして、想い返して欲しいと自分だけを見て欲しいというどこまでも貪欲な気持ち。今なら好きだから殺してしまったという犯人の気持ちも分かるかもしれない。そう思う自分に苦笑する。
ちらりと黒羽先生の顔を見る。端整でかっこいい。しばらく見とれていると、黒羽先生が話しかけてきた。


「工藤。もう少しちゃんと授業に出ないと単位やれないぞ。少しは事件要請を自重した方がいい。顔色も悪いし大丈夫か?」
「はい。分かってます。平気です」
「ならいい」



こうして心配してくれる。黒羽先生のこういう優しいところが好きだ。好きという気持ちが溢れてくる。
いつの間にかプリント作成は終わっていた。


「お疲れさん。もう帰っていいぞ」
「先生」
「ん?」
「俺、やっぱり黒羽先生のことが好きです。諦められません。すぐに同じ想いを返して欲しいとは言いません。でも、想うことだけは許して下さい」


新一は蒼い瞳で毅然と見つめて言った。
黒羽先生も紫紺の瞳で見つめてくる。
一瞬沈黙が流れた。





「・・・・・・・・」
「それじゃあ、失礼します」



今の想いを全て打ち明けて新一は数学準備室を後にした。ほんの少しだけすっきりした。絶対振り向かせてみせる。決意も新たに歩き出した。




パタンと閉まったドアを快斗は見つめていた。





「ははっ、参ったなぁ…」



まさかあんなことを言われるとは思わなかった。まったく予想がつかなくて面白い。
決意がぐらぐら揺れているのが分かる。
決めたんだ。想いには応えないって。応えられないって…。



「工藤、俺なんか想うのはもう止めろよ」



辛そうな顔で、快斗は呟いた。





お題配布元→水葬





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