君はどこに行ってしまったんだろう。




いよいよ始まるクラス対抗クイーン大会。
でも観客席を見ても一番見て欲しい人はいなくて…。
新一は知らずため息を吐いた。






君はどこに行ってしまったんだろう。





新一は周りの出場者たちを見回してため息を吐いた。こんな酷いありさま人に見せていいのかとため息が出る。
なんやかんやいいながら毎年出場から逃れて来たが、今日はそんなわけにはいかない。何よりも大切な人がみたいと言ってくれたから。
でも、その人は今そこにはいなくて新一はまたため息を吐いた。駄目だ。こんなことじゃ。幸せが逃げて行っちゃう。
新一は身に包んだ濃蒼のドレスを閃かせて舞台上に立った。


「それでは第142回クラス対抗クイーン大会を開催します」


わあっと歓声が上がる。男の女装を見て何が楽しいんだと不思議に思う。その視線がほぼ自分に向いてることに気付かずに。
最初はやはりと言うか自己紹介からだった。新一も簡潔に自己紹介する。
けれど他の出場者の声は新一には届かなかった。ただ一人の人を捜す心。けれどいないことに傷付く。


何でいないんだよ…。見たいって、言った癖に。
嘘つき。黒羽先生の嘘つき。
泣きたくなってギュッと目を閉じた。そんな新一を心配げに見つめる瞳に気付かずに。



「さて、では結果発表です」
「嘘つき…」


見たいと言った笑顔が蘇る。
見たいって言ったのに。じわりと涙が浮かんだ瞬間、司会者の言葉に仰天した。


「優勝は−−何と黒羽先生です!」
「………………え?」


わああああっと歓声が轟く。見てみれば両手を上げて微笑んでいる女性の姿。
−−いや、訂正しよう。両手を上げて微笑んでいる完璧な女装をした男の姿。それに新一は涙も吹き飛んで仰天した。


「僅差で二位は工藤君でした。いや〜、驚きですね。二人ともまさに女性…」
「く、くろ…黒羽先生!?」


司会者の声も耳に入らない。快斗は綺麗な紫色のドレスを身に纏っていた。


「ごめんね、新一。ずっと言おうと思ってたんだけど邪魔が入ってばかりで言えなかったんだ」
「黒羽先生…」
「綺麗だよ、新一…」


隣に立った快斗がそっと囁いてくれて新一は真っ赤になった。けれどこの時こっそり自分より綺麗な人に言われても説得力がないと思ったのは秘密。


「ありがとう、黒羽先生」


嬉しくてこっそり涙を流した。そんな文化祭の1日。






お題配布元→水葬





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