これが夢なら、覚めなければいい。




学校に行ったら、新一の怪我のことがあっという間に広がった。
けれど話しかけてくる者はいない。
新一が暗いオーラを放っていたから。






これが夢なら、覚めなければいい。





「工藤――!!」


低いテノールの声が新一の名を呼ぶ。
それにびくりと反応して新一は振り返った。そこには快斗が立っていた。
近づいてくる。快斗が何を考えているのかわからなかった。快斗が口を開く。新一は身構えた。「怪我したんだって?大丈夫か、工藤」
「……ぁ…はい…」


新一の沈んだ気配に気づいた快斗は昨日何かあったのかと心配になった。だから安心させるように笑顔で言った。


「ちょっと数学準備室来いよ」
「ぇ……、でも…」
「いいから」


怪我をしてない右腕を掴んで引いていく。その手が微かに震えているのに気づいて快斗は首を傾げた。
何をそんなに怯えているのだろうか?


「工藤、怪我の具合はどうだ?」
「傷も浅かったし、それ程酷くありません」
「良かった。傷、見てもいい?」


こくりと頷くと、快斗は新一の左腕を慎重に持ち上げて包帯を外していく。外し終わってガーゼを取ると痛々しい傷がそこにあった。快斗は傷口に触れるか触れないかの口づけを贈る。それに新一はぴくりと肩を震わせた。


「……………ッ……」
「良かった、新一が無事で。良かった。……ねぇ、昨日何かあったの?」


こんなに俺のことを想ってくれて、こんなに俺のことを大切にしてくれてるのに、疑うなんて俺は馬鹿だ。新一は自嘲の笑みを浮かべて快斗に言った。


「何でもない。何でもないんだ…。ありがとう。大好き、黒羽先生」
「?……俺も好きだよ、新一」


抱き締めあってキスをした。これが夢なら、どうか覚めないで――。あなたのそばにいさせて。






お題配布元→水葬





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