僕の知らない、君。




「工藤君――ッ!!」


一瞬の出来事だった。
その途端手に走る痛み。急いで病院に運ばれた。






僕の知らない、君。





「大丈夫?工藤君」


佐藤刑事が心配そうに聞いてくる。それに笑顔で頷いて新一は手を上げた。幸い左腕だったことと傷の浅さから包帯を巻くだけで済んだ。それにホッとしながら新一は何気なく視線を病院内にさ迷わせた。



「良かった」
「無茶しちゃダメよ!工藤君」
「はい、すみませ…ん……」


その時、視界の端に映った後ろ姿に新一は反応した。それは大好きな恋人の――快斗の姿だったから。
でも次の瞬間に見た光景に茫然とした。
快斗に寄り添うように立っている人がいた。快斗は自然にその人を支えてて、その光景は新一よりよっぽど恋人同士に見える。何よりショックだったのが快斗の心変わりを疑ってしまう自分自身。
一瞬快斗の横顔が見えた。優しい表情で笑っていた。どくり、と心臓が音を立てた。そんな表情、俺は知らない。血の気がさぁっと引いていく。無意識に一歩快斗の方へ足を踏み出していた。



「工藤君?どうしたの」
「………ぁっ……何でも、ありません…」


踏み出していた一歩を慌てて引いて新一は無理に笑った。だが、それで誤魔化されてくれるほど佐藤刑事と高木刑事は甘くなかった。


「ダメよ。顔色が悪いわ。帰りましょう」
「…はい……」


新一は佐藤刑事に引きずられるように家に帰った。冷たい心を抱えたまま。




「快斗?どした?」
「…?……いや、何でもない」


奏は不思議そうに快斗に問いかける。けれど快斗は気のせいだろうとさっきまでと同じ明るい笑みを浮かべた。


「早く病室戻るぞ。まだ体力ないんだから」
「平気だって」


奏は笑顔で笑った。昔と同じように…。






お題配布元→水葬





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