愛してる、もういえない言葉だけど。 新一は部屋の前で立ち止まって深呼吸した。 ノックをすると中に入ってくるよう促された。 愛してる、もういえない言葉だけど。 白馬に促されてソファに座る。新一は毅然とした表情で白馬と向かいあった。白馬はというと珈琲を淹れていた。 新一の隣に腰を下ろす。 「そんなに怖がらないで下さい。黒羽君との関係をバラされたくはないでしょう?」 「なんでこんなこと…」 新一はキッと白馬を睨みつけた。白馬は嫌みなくらいの笑顔で理由を応えた。 「何故ですって?僕が聞きだいですよ。そんなこと。何故、あなただったんですか?僕も同じ探偵だったのに…。彼は…黒羽君は、君を選んだ。それに、君は何故彼を選ぶ。何故、黒羽君もあなたも…」 「白馬、刑事……」 新一は気づいた。白馬は黒羽先生のことが…。そして、今は俺のことで混乱してるんだ。 すると、今までブツブツ呟いていた白馬が、急に新一を押し倒してきた。嫌悪に鳥肌がたつ。 「ゃっ……ぃゃぁっ……」 「いいんですか?学校にバレても」 「…………っ……」 ――――いやだ、いやだ!黒羽先生!! ぎゅっと目を瞑った瞬間、ドアを蹴破る音がした。白馬と新一が驚いて振り向くと、そこには快斗の姿があった。 見られた。こんな姿を…。もう終わりだ。絶望感に苛まれている新一に、白馬と快斗の会話が聞こえてきて驚いた。 「なっ……黒羽君!?」 「白馬、お前最低だな。新一を離せ」 「何を言ってるんですか?これは同意の上。そうでしょう?」 白馬に促されて、新一は黙って頷いた。もう、言うことはできないけど、愛してるよ快斗。一筋の涙が頬を伝った。 けれど、そんな新一たちに構わずに快斗は新一に近づいてジーンズのポケットからICレコーダを取り出した。それに仰天したのは白馬と新一。まじまじと快斗の手の中を見つめた。 「さて、これを聞いてもそんなことが言えるのか見物だな」 「「………………」」 「白馬。これ以上俺たちにつきまとうな。もしまた同じことがあったら、これを新聞社と警察に送りつける」 「くろばく……」 「言い訳なら聞きたくない。新一、帰るよ」 快斗に腕を引かれて、新一は部屋から出た。ちらりと見た白馬はうなだれていた。 車の中沈黙が痛かった。家の前まで来て車が止まる。新一は、沈黙に堪えられなくて謝った。 「ごめんなさい」 「……ハァッ。怒ってないよ。怖かっただろ?新一」 「…ぅっ……ひっく……せ、せぃ…」 今更のように震えが止まらなくなって、涙が溢れてきた。快斗は優しく新一を抱き締めた。頬を伝う涙を唇で拭う。 「今日は帰るよ。また明日ね…」 「…ゃっ……まっ、てぇ……」 「ごめんね。でも、我慢できないから…」 「が、まん…しなくて……ぃいから…」 「後悔しても知らないよ…」 新一は快斗に抱き上げられて家の中に入った。 お題配布元→水葬 戻る |