気付かなかったのは、どれほどの罪になるのだろうか。





「灰原が倒れた……!?」





 その知らせを受けたのは、もう夜半も当に過ぎた深夜。その知らせに嫌な汗が頬を伝う。
 気付かなかった。アイツがそこまで思い詰めていただなんて。それを、綺麗に隠してアイツはいつも通り素っ気なく振る舞っていたから。





「それで?大丈夫なのか?」

『そのことで君に話がある。新一君、今から来られるかね?』





 そう問われて俺は眉を寄せた。今は深夜だ。流石にこの時間に外出を許してくれるほど毛利一家は馬鹿じゃない。
 小五郎だけならまだ騙せたかもしれないが、今は英里もいる。記憶をなくした彼女のために。英里は一筋縄では行かない。それくらい博士だってよく知っているはずなのに。
 何故そんなことを言うのかわからなかった。





『今から迎えに行くから大丈夫じゃ。毛利君たちにはわしから話す。じゃから電話を代わって準備してくれんかね』

「わかった…」





 釈然としないが、兎に角動くしかない。小五郎に携帯を渡して、俺は着替え始めた。
 漠然とアイツが何故倒れたのか首を傾げながら。何となく嫌な予感がして首を振った。きっと大丈夫。ただの風邪か何かだ。
 そう思おうとするのに、不安がひたひたと心に忍び寄って来る。これは予感だったのかもしれない。










「灰原!」

「今は寝ておるからでかい声を出すんじゃない、新一」





 博士の苦言も無視して、俺はアイツを睨み付けた。漸く知った真実。コイツは未だに解毒剤の研究を続けていたのだ。
 知らなかったのは俺だけ。しかも、あろうことかコイツは自分自身を実験体にして、薬を完成させた。それは、大きな代償と共に−−。





「………博士を叱らないで」

「灰原…」

「私が勝手にやったの。だってあなたは…」

「ふざけんな!」





 思わず怒鳴っていた。悔しくて仕方なかった。
 コイツは、俺の体を元に戻すために、自分の元の姿を消した。コイツが解毒剤完成と引き換えにしたのは、自分自身が元の姿を取り戻すことのできない体。つまり、コイツは元の姿を捨てたのだ。諦めたのだ。
 −−俺のために。





「−−−−ッカヤロ……」

「ごめんなさい。それでも私は…」





 ごめんなさいと謝り続けるコイツに、なんと言えば良かったのだろう。ただ、それだけがわからなかった。上を見上げて、目を見開いて、ただ何も言えない自分の無力さに唇を噛んだ。
 せめてこれだけは伝えたい。コイツには、知っていて欲しいから。





「それでも俺は、オメーを犠牲になんてしたくなかった」





 どうかこの強く弱い少女が、自分の周りにある幸せに気付いてくれますように。






壊れた心。
(気付いてやれなかった)
(追い詰めてしまったのは、きっと…)






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