誰よりも大切に想っていた彼女が、遠く離れた瞬間、俺はただ呆然と彼女をみていた。





「容態は?」

「危険な状態です。早く処置室へ」





 忙しなく動く医師たちの姿を、俺は血まみれになった手で見つめていた。これは、何よりも守りたかった彼女の血。命の雫。
 危ない!という悲鳴にも似た彼女の声だけが耳にこびりついて離れない。ぴくりとも動かない体。体中から溢れ出す血溜まりに、目眩を覚えて、ふらつく体を壁に押し付けた。





「脈拍が弱い。早く血液を」

「先生、また容態が」





 慌ただしく彼女を助けるために動く人。けれど、無情にもピーーーッという電子音が鳴り響いた。





「先生!心拍停止しました」

「心臓マッサージだ。早く」





 目の前を駆け抜ける看護士に俺は静かに目を閉じた。





 笑ってくれよ、頼むから。目を開けてもう一度俺をみて。それだけで、俺は救われるから。
 この命を懸けたっていい。たった一つ、伝えたい想い。






 蘭が、誰よりも好きだ−−。




言葉にならない想いを…
(ねぇ、総て終わったら伝えたいことがあるの)
(それは、もう聞くことさえ出来ない)






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