私が奪ってしまったものは、彼にとって何よりも大切なものだった。
「気にすんな。オメーのせいじゃない」
「でも、彼女は、」
それ以上言葉を続けることが出来ず、私は唇を噛み締め拳を握り締めて俯いた。
どんな責めを負ってもいいと思ってた。彼の正体に気付いた彼女は、自分だけが何も知らず、守られるのは嫌だと後を付いて来て。そんな彼女の強さに、私たちがどんなに励まされたかわからない。
「いいんだ。喩え蘭が俺を忘れたとしても、ずっと、ずっと、そばで守るから」
「そんな風に諦めないで。必ず解毒剤を完成させるから」
「灰原、もう、いい…」
「……………っ……」
彼女は、彼を守って撃たれた。その彼女を守るために彼が犠牲にしたのはAPTXに関するデータ。結果、彼女の記憶は失われ、彼は解毒剤を諦める他なかった。
何故彼女だったんだろう。せめて、総てを失うのが私だったら良かったのに。
あの頃の優しい笑顔はもう戻らない。そして、温かいあの優しい空間も。
何も出来ない。言うことさえ出来ない私は、一滴の涙を零して空を見上げた。
私はどんな罰を受けてもいい。
だからどうか、彼らを−−。
心の声は涙となって、
(ほら、だから言ったでしょ?)
(優しい人ほど幸せになれない)
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