†哀しみの中で†




あの時沸き上がったのは
純粋で、穢れきった殺意
それでも踏みとどまれたのは
誰も復讐を望んでないと知ってるから…



†哀しみの中で†



KIDは走っていた。
出口に向かって。
もう直ぐ警察やFBIが大勢集まって来るだろう。
それまでに脱出していなければならない。
あらかじめ決めておいたポイントから出た瞬間、狙ったかのようにKIDの隣を銃弾が通り過ぎていった。

「温いな」
「ユダ…」

そこには銃を持ったユダがいた。
くるくると手の中で銃を弄んでいる。
それにKIDは間を取って真正面から対峙した。

「何故殺さなかった。あいつらはお前の親父の仇だろ?」
「私は言った筈です。殺しはしないと。誰のためにもならないですから」
「怪盗KIDがそうならお前自身はどうなんだ?黒羽快斗」

ざわりと空気が揺れた。
KIDが――快斗が動揺したのがわかる。
それにニヤリと笑ってユダは言った。

「お前自身は殺したいと思わなかったのか?それとも別に父親を殺されたことくらいじゃ動揺しないのか?」
「――――っんなことない!!」

快斗がKIDの仮面を剥がしてユダを揺れる瞳で見つめた。
紫暗色の瞳。
もうそろそろ辺りも暗くなってきて月が顔を出すだろう。
そうすれば、また見れるだろうか?
あの赤い綺麗な光を。

「憎いさ。殺してやりたいと思うくらい悔しくて、哀しくて…。どうしてあんな奴らに父さんが殺されなきゃならないんだって…。でも、誰も復讐なんて望んでない。それがわかってるからできなくて…」
「KID…!?」

迸る激情。
もう止めることなんてできない。
何度頭の中で殺しただろう。
あいつらを。
ユダは快斗の独白を茫然と聞いていた。
あの時沸き上がったのは
純粋で、穢れきった殺意
それでも踏みとどまれたのは
誰も復讐を望んでないと知ってるから…







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