†それぞれの気持ち†





拒絶しないで…
もっと近くに行かせて…
あなたが側に来てくれたように…
あなたを助けたいと思うのは罪ですか?



†それぞれの気持ち†



KIDの予告日の翌日。
新一と哀は工藤邸のリビングにいた。
2人は昨日のKIDの中継地点であったことが忘れられずにいた。
特に哀は庇われたことからその事を凄く気にしていた。
新一は哀を気遣うように見ていた。

「灰原……」
「何?工藤君」

弱々しい声でそれでも気丈に振る舞おうとする哀に、新一は何を言えばいいか分からない。

「あ〜〜。そのな……」

ピンポーンとその場の空気を壊すチャイムの音が鳴った。
こんな時にと怒りを覚えた新一は玄関のドアを乱暴に開けた。

「わっ?!びっくりした。工藤どうしたんだ?」
「黒羽……」

体に入っていた変な力が一気に抜けて新一は脱力した。
とにかく快斗をリビングに通す。
そこには気落ちした哀がソファの上に身を沈めていた。
それを見て察した快斗は新一に珈琲を淹れる許可を貰って淹れに行った。

「はい、哀ちゃん」

コトとマグカップが哀の前の机の上に置かれる。
新一と自分用のカフェオレも順に机の上に置いていった。
顔を上げた哀がマグカップを持って快斗に礼を言い一口口に含む。

「ありがとう、黒羽君。いらっしゃい」
「お邪魔してるよ」

快斗が来たことによって温かい空気が流れ出す。
快斗がいると何故か心が温かくなるから不思議だ。
快斗が優しく、無理矢理じゃなく自然に哀に問いかけた。

「ねぇ、哀ちゃん。何かあったの?話したくなかったら言わなくてもいいから」
「……昨日、工藤君と一緒にKIDの現場に行ったの……」「それで、KIDがそこで狙撃されたんだ」

新一が哀の後に続けてそこであったことを端的に話す。
全てを話すわけにはいかないから仕方ないだろう。
全てを知っていても何も言わない俺と同じで…。

「KIDが狙撃!?」
「私の、私のせいなの。私を庇ったせいで……」
「灰原!!」

驚いた風に言うと、哀が堰を切ったように自分を責め始めた。
哀が悪いわけじゃないのに…。
彼女は優しすぎるのだ。
だから自分を助けたと思っている怪盗が傷ついたことに彼女自身も傷ついてる。
哀を制止しようとしていた新一を止め、快斗は哀の前に膝を付いて両手で哀の手を包み込んだ。「哀ちゃん。それは違うよ。KIDは人を傷つけない傷つくのを黙って見ていることができない正義のヒーローだろ。哀ちゃんが傷つかなくて良かったってそう思ってるよ」
「でも、沢山助けてくれたのに……」

APTX4869のデータを持って来てくれたのも彼だった。
解毒剤の開発が思うように進まなかった時に、励ましてアドバイスをくれたのも手伝ってくれたのも彼だ。
助けて貰ってばかりで何も返すことができない。

「でも、哀ちゃん。俺は哀ちゃんが無事で良かったと思うよ。哀ちゃんが怪我しなくてKIDも良かったって思ってるよ。それに、KIDは魔術師だよ。だから大丈夫」

ねっと笑顔で言う快斗に哀が瞳に涙を溜めながら笑った。
久しぶりに見た晴れやかな綺麗な笑顔だった。

「そうね、ありがとう」
「って言ってもKIDは犯罪者だけどね」
「まったくだ。何が正義の味方だよ」

新一もホッとしておちゃらけた快斗に突っ込みを入れる。
だから誰も気づかなかった。
快斗がずっと左腕を庇っていたことに。







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