†闇の陽炎†




多分同じなんだよ、俺たちは
人を傷つけるのが怖くて
遠ざけて近づけないようにしてる
でも、気づかなきゃ
もう、逃げてばかりいられないんだって…



†闇の陽炎†



KIDは中継地点のビルの屋上が近づいてくると、見えた人影にこっそり苦笑した。
そのまま軽やかに優雅に降り立つ。
ふわりと靡くマントを捌き、KIDは話しかけた。

「今宵はよい月夜ですね、ユダ」
「……何故そんなに平然としていられる」

ユダがKIDを鋭い視線で射抜く。
だが、KIDはもうそれを怖いとは感じていなかった。
にっこり微笑んでKIDはユダに言い放った。

「あなたが私にとって、もう脅威ではないからです」
「何だと」
「あなたに私は殺せません」

言い切ったKIDの頬を一筋の血が伝う。
通り過ぎていった拳銃の弾が掠れた痕。
それでもKIDは微動だにせず、ユダを見つめ続けた。

「俺にお前が殺せないって?なら、今銃を放った俺はなんだ」
「それでは何故心臓を狙わないんですか?何故頭を撃ち抜かない。あなたは私を殺す気はもうない。だってあなたは、この前私を助けてくれたじゃないですか」

KIDの紫暗の瞳に呪縛されたようにユダは動けなかった。
誰だ?これは…。
この前のKIDとはまるで違う。
何故、そんなに優しげな瞳を向ける。

「ただの気まぐれだ。お前を助けたのだって、何か裏があるかもしれないだろ」
「いいえ、それはありません。私はあなたを信じます」

『あなたを信じてるわ…』
脳裏に浮かんだ女性にユダは額を抑えた。
ジュリア…。

「俺は、まだお前を殺すことを諦めたわけじゃない。覚えておけ」
「……ユダ、」

かける言葉が見つからず、KIDは黙ってユダを見送った。
きっと大丈夫。
KIDには自信があった。
彼は、昔の自分に似ている気がしたから――。







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