†パンドラの箱†
俺には哀しそうに見えたんだ
まるで、置き去りにされた
子犬のようで
放っておけなかった…
†パンドラの箱†コツコツと足音が近づいてきて、快斗はうっすらと目を開けた。
どうやら少しの間意識を失っていたらしい。
快斗は緩慢な動作で近づいてくるものを見た。
瞬間、目に入る銀髪と緑色の眸。
「よくよく遭うな、KID」
「……ユ、ダ…」
掠れた声が出て、快斗は少し咳き込んだ。
ユダが足元まで近づいてきて此方を見下ろしている。
それに快斗は苦しいながらも話しかけた。
「なぜ、このような…ところ、に……」
「お前と多分一緒だろうな。ただ、目障りだっただけだ」
ユダが苦々しそうに言う。
この前の研究所のことで付きまとわれていて邪魔だったのだと。
「あなたが、原因…ですね…。今回のこと」
「そうだな」
「逃げなくていいんですか?」
「お前を殺したら逃げる」
ユダはそう言って銃を取り出し快斗に向けた。
快斗は、それをただ淡々と見ていた。
「私はまだ死ぬわけにはいきません。まだやることがありますから」
「だが、お前は俺が殺さなくてもどうせ死ぬ。KID」
ユダの冷たい眸に快斗は哀しげな紫暗の双眸を向けた。
「あなたは、何故私を殺すことに拘る。あなたに大切なものはないんですか?」
「――――そんなものあるわけ、」
言い切ろうとしたユダは、快斗の瞳にある女性の姿が被さって見えて驚愕した。
過去がフラッシュバックする。
『 、好きよ…。さよなら…』
『ジュリア…』
女性が離れていく。
ユダはそれをただ見ていることしかできなかった。
「――うるさい!!そんなものない。お前だって人に言えない――バレたらヤバい秘密があるじゃないか!!」
八つ当たり気味に快斗に怒鳴ったユダは銃を撃ち抜いた。
弾が快斗の頬を掠めて壁に貫通する。
また、遠くで爆発が起こった。
快斗はユダの言葉を覚悟を決めて聞いた。
「お前のその瞳、パンドラの瞳っていうらしいな。KID、お前にだって人を守るより大切な秘密があるだろう?」
それが、死刑宣告だった。
快斗の中で哀しい決意が固まった。
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