†癒やしの涙†





死なないで
生きていて
もう、大切な人に置いていかれるのは
嫌なんだ…



†癒やしの涙†



「新一!!新一―――!!!!」

快斗は、目の前起こった爆発に吹き飛ばされた。
痛む体に鞭を打って起き上がった快斗が見たものは、瓦礫と化した研究所だった。
快斗はその瓦礫を駆け寄って、懸命に掻き分けて新一を探した。
マジシャンにとって大切な指が傷つくことも気にせずに…。
漸く見つけ出した新一は体中に傷を負っていて荒い息を吐いていた。
既に意識はなく、だらりと下がった腕。
特に腹部の傷が深くそれを見た快斗は、直ぐにもう駄目だろうと気づいた。

「――――やだ…。やだよ、新一…。目開けてよ…」

それでも、服を破って止血して、なんとか血を止めようとする。
だが、その行動を嘲笑うかのように後から後から血が滲み出し溢れてくる。
このままじゃ、新一は死んじゃう…。
どうして俺はいつもなにもできないんだ。
父さんが死んだときのことがフラッシュバックしてきた。
笑顔で笑って『行ってくるよ』と言った父。
その後、舞台でマジックをしている姿が最後に見た姿だった。
最後の笑顔を、最後のマジックを今でも覚えてる。
あの時、俺は見てることしかできなかった。
伸ばした手は届かなかった。
また、見ていることしかできないのか?

「ねぇ、新一。死んじゃやだよ…。戻ってきて……」

快斗の瞳から涙が一筋流れた。
一度流れ出すと、後から後からぽたぽたと溢れてきて、涙が新一の体に降り注いだ。
瞬間、涙が触れたところから新一の負った傷が消えていった。
空には月が煌々と輝き、快斗の瞳に反射して紫暗の瞳が赤い光を放っていた。
ぴくりと新一の腕が動く。
続いて目が開いて口が開く。

「……か、い…と…」
「新一!!よかった」
「おれ、たしか…」

新一は思い出そうとして、快斗が流す涙に目を奪われた。
月の光を受けて赤く輝く瞳から涙の雫がはらはらと零れていく。
その幻想的な光景に惹かれ、新一はゆっくりと手を伸ばした。
頬を伝って流れる涙を指で拭う。
あぁ、哀しませてしまったな…。
新一はぼんやりとそう思った。

「新一が死んじゃうかと思った…」
「快斗…。ごめんな。何処にも行かないから泣きやめよ」

快斗は涙を拭いながら心の中で謝った。
ごめんなさい…。
約束守れなくて…。
その光景をスコープ越しに見つめる影がひとつあった。







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