†嬉しいこと†
楽しいこと
嬉しいこと
君にはたくさん経験して欲しいんだ
今まで辛かった分だけ
†嬉しいこと†今日哀は少年探偵団の面々と遊ぶ約束をしていた。
ずっと前からみんなが楽しみにしていた今日の約束。
でも、快斗の様子が気がかりな哀は残念だけど断ろうと思っていた。
「行ってきなよ、哀ちゃん」
「でも……」
「俺は大丈夫だからさ。ちゃんと寝てるし。それに、哀ちゃん楽しみにしてたでしょ?」
笑顔で促されて哀は後ろ髪を引かれながらも出かけて行った。
阿笠博士と一緒に。
快斗はまだ少年探偵団の面々と顔を合わせたことはなかったけれど、明るくていい子たちだとは知っている。
ちょっと無邪気すぎるところもあるがそれは徐々に落ち着いていくだろう。
「さて、寝るか…」
声が広い邸内に吸い込まれて消えた。
今日は新一も事件に呼ばれて出かけてしまっている。
哀が残ろうとしたのもそれが原因のひとつだ。
それに、昨日動いたせいで傷が熱を持って微熱があることもその要因だろう。
でも快斗は、今まで辛く哀しかった分だけ楽しいことや嬉しいことを哀に経験して欲しかった。
だから快斗は哀を送り出した。
そんなことをつらつら考えながら快斗は眠った。
たが、暫くすると急に目が覚めてしまった。
時計を見ると3〜4時間経っている。
微熱も下がったようだ。
肩が少し痛む中、快斗は起き上がった。
誰の気配もない家の中、快斗は少し寂しい気持ちになった。
まるで世界にひとり取り残されてしまったような気がした。
新一もこんな気持ちになってたのかなと、快斗は新一が一人暮らしをしていた時のことを思った。
目が冴えてしまった快斗は暇で心細くて、無意識に不安を紛らわすようにマジックの練習を始めてしまっていた。
そこに帰って来た新一と哀。
「ただいま、快斗」
「お邪魔してるわ。黒羽君」
「…………ぁ……」
ふたりが帰って来たことで、邸内に温かい人の気配が広がった。
快斗はそれにホッとして表情を明るくした。
だがふたりの目は、快斗の手元に落ちた。
一瞬沈黙が流れ、新一と哀の低い声が響いた。
「快斗」
「黒羽君」
「し、新一。哀ちゃん…」
怒った顔をして新一と哀は快斗に近づく。
忘れちゃいけません。
快斗には絶対安静令が出されていたのだ。
それなのにマジックをしていた快斗。
「大人しくしてるって言ったわよね?」
「何もするなって言わなかったか」
「ご、ごめんなさい」
いじっていたボールを消して快斗は慌ててふたりに謝った。
ため息を吐いて許してくれた新一と哀。
それから哀の作った夕飯を食べてその日は過ごした。
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