†不安な時間†





時間が進むのが遅く感じた
早く帰って来て…
不安で、胸が潰れそうなんだ…
どうか無事で…



†不安な時間†



快斗がユダと対峙していた時、新一と哀は快斗が帰って来るのをやきもきしながら待っていた。
ひたすら待ち続けて、流石に遅すぎると段々不安になって来た時、寺井から電話が入った。
今すぐ治療できる準備をしておいて欲しいと言う寺井に、新一と哀は緊迫した空気を感じ取った。
直ぐに切れてしまった電話。
治療の準備をして苛々と待っていると、家の前に車が止まる音がする。

「快斗!!」
「黒羽君!!」

バンッとドアを開いて外に飛び出すと、車から寺井が降りてきた。
後部座席を開くと、中には血だらけの快斗の姿があった。
白い衣装の肩と足から血が滲み出ている。
自力で出てこようとする快斗に呆然としていた新一と哀は急いで手を貸そうとした。

「大丈夫……っ」
「動くな。そんな怪我して」
「平気だよ…。新一、哀ちゃん」

快斗はやんわりと手を振り解いて動こうとする。
新一の力では、快斗を止めることはできなかった。
こんな時にもやっぱり頼ってくれない快斗に新一と哀は哀しくなった。
そこで寺井が出て来て、無理矢理快斗を抱き上げた。

「寺井ちゃん!!」
「いい加減にして下さい。皆様心配しているんですよ。大人しく運ばれて下さいね。分かりましたか、坊ちゃま」
「快斗…」
「黒羽君…」
「………っ………」

暴れていた快斗は心配そうな新一と哀を見て抵抗を止めて黙り込んだ。
大人しくなった快斗をベッドへ運ぶ。
そこで、また快斗が自分で治療をしようとするのを強制的に止めて、哀が怪我の具合を見る。
肩の前と全く同じ場所を弾が貫通していた。
その後抉られたようなその場所を哀は黙々と治療する。
折角完治したばかりだったのに…。
足の方は、それ程酷くはなかった。
これなら、一週間もすれば治るだろう。

「終わったわ」
「ありがとう、哀ちゃん…」

弱々しい声で快斗がお礼を言う。
それに哀は快斗の両頬を挟むようにして快斗と向き合った。

「黒羽君。こんな時くらい私達を頼って」
「でも、……」
「迷惑なんかじゃないわ。私達は迷惑だなんて思わない。だから、もっと私達を頼って。あなた言ったじゃない。私達に助けたいんだって。協力したいんだって。私達も同じなんだって気づいて」
「うん。ごめんね、気づかなくて…」
「分かってくれればいいわ」
「ありがとう」

ふわりと快斗は微笑んで、走った痛みに顔を少し顰めた。
そこで、今まで見守っていた新一と哀は快斗の唇の端が切れているのに気づいた。

「黒羽君?その傷どうしたの」
「傷?」
「唇の端の…」

快斗がはっとした顔をして口を手で覆って隠した。
その行動に気づいた新一。

「――ユダか…?」
「あの、新一?」
「寺井さん。灰原。ちょっと二人だけにしてくれないか」
「私達はリビングにいるわ」
「それではまた後で、坊ちゃま」
「ああ」

快斗の縋るような視線はさらりと無視され、哀と寺井が出て行くと快斗と新一の二人きりになった。
嫌な沈黙が落ちる。
先に口を開いたのは新一だった。

「快斗……」
「新一?」

ぎしりと頭の両側に手をつかれて、寝たままの快斗は身動きが取れない。
新一は白く細い指で快斗の唇を撫でた。
ぞくりと背筋に何かが走り抜ける。

「俺、好きだって言ったよな」
「うん。俺も好きだよ」
「なら、お前は俺のものだよな」

すっと顔を近づけて唇に触れるだけのキスをする。
そして離れようとするのを引き止めて、快斗が深く唇を重ねた。
離れるとき新一が快斗の切れている口端を舐め上げた。

「俺は新一のだよ。新一は?」
「俺も快斗のもんだよ」
「じゃあ、ずっと一緒だね」
「ああ、ずっと一緒だ」

くすりと笑いあってもう一度キスをした。
何よりも願っていて、でも、何よりも難しい願いを口にしながら…。







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