†届け、この想い†





なぁ、俺がいなければよかったの?
そうすれば、みんな幸せになった?
ごめんなさい…
俺さえいなければ、
親父が死ぬこともなかったのに…



†届け、この想い†



ドンッという大きい音が聞こえて、リビングにいた哀と博士と有希子は驚いた。
急いで書斎に駆け込むと、新一が壁を殴ってうなだれていた。

「なにがあったんじゃ?新一君」
「どうしたのよ。優作」
「ちょっとな……」

優作が言葉を濁す。
新一は何も答えなかったが、哀の言葉を聞いてばっと顔を上げた。

「黒羽君はどうしたの?」
「黒羽?」
「あなたたちをお茶に呼びに来てそのままなのよ。どこにいるの?」
「――いつだ!!あいつが来たのはいつ頃」
「だいたい5分くらい前よ」

新一の反応に何かを感じ取ったらしい哀は、端的に質問に答える。
緊迫した空気が流れる。

「どうやら、聞かれてしまったようだね」
「早く探さないと――」
「待ちなさい。新一。みんなも聞いてくれるかな?」

優作の言葉に、皆が耳を傾けた。



「――黒羽!!」

杯戸シティホテルの屋上に快斗はいた。
まだ風が冷たい中、上着も着ずに快斗は屋上の隅で夜空を見上げていた。
その姿が今にも消えてしまいそうで、新一は胸が締め付けられた。
こんなことになって漸く自分の気持ちに気づいた。
ごめん、今まで…。
ずっと中途半端なままで…。
何も答えない快斗に、新一は叫んだ。

「くろ……快斗!!」
「………く、どう?」

のろのろと緩慢な動きで快斗が振り返った。
その快斗の表情を見て、新一は衝撃を受けた。
快斗は、いつも通り微笑んでいた。そう、いつもみたいに笑顔で何もなかったかのように…。

「快斗!!――ッ…」
「ねぇ、工藤。俺がパンドラなんだってね」
「快斗……」
「はは、笑っちまうよな。俺のせいで親父は死んだんだ。俺が――親父を殺したんだ」

それは、魂の慟哭だった。
顔を上げた快斗の紫暗の双眸は、月の光を受けて赤く輝いていた。
いつも、背を向けて月に宝石を翳していたから気づかなかった。
また、気づいてやれなかった。
自分の不甲斐なさに苛立つ。
今も、ただ快斗の名前を呼んでやることしか新一にはできない。

「俺さえ、俺さえいなければ…。そうすれば、誰も傷つかなくてすんだのに…」
「――快斗…ッ…」

屋上の淵に向かって歩いていく快斗に、新一は抱きついて止めた。
寒風に晒されて冷え切っている快斗の体を温めるように新一はギュッと抱きしめる。

「快斗、お前が悪いんじゃない。みんな快斗のことが好きだよ。大切なんだ。だから、そんなこと言うなよ…」
「……工藤?――泣いてるの?」
「新一。新一って呼べよ」
「し…ん、いち……新一」
「快斗。遅くなってごめんな。俺も、お前が――快斗が好きだよ」

ポロポロと蒼眼から涙を流しながら、新一は快斗に想いを伝えた。
泣けない、泣くことができない快斗の代わりに涙を流しながら。
快斗が、新一の顔を覗き込む。

「ありがとう、新一。俺も好き。大好きだよ」
「ずっと、いっしょにいような」

それには、快斗はただ笑顔を返すだけだった。
寒いと、2人で抱きしめ合って、顔を寄せてキスをした。
初めてのキスは冷たくて甘酸っぱかった…。







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