†たまには†





快斗、どんな時も泣いてはいけないよ…
お前が泣けば、みんなも哀しむ…
だから、どんな時もポーカーフェイスを忘れてはいけない…
約束だよ、快斗…



†たまには†



懐かしい夢を見た。
小さい頃の優しくて暖かくて切ない夢。
もう二度とこの大きな手で頭を撫でてくれることはないんだ…。
それでも、泣くことはできない…。
だって、親父との約束だから…。
だから俺は、泣いた記憶がないんだ…。

「どうしたの?黒羽君」
「ぇっ……あっ、何でもないよ。ちょっと考え事」
「そう、ならいいけど…」

哀に話しかけられて漸く思考の淵から戻って来た。
心配する哀に心配ないと笑顔を向ける。
子供の頃からよく言われてた。
「快斗はいつも笑ってるね」って。
笑ってるのはいけないこと?
だって、親父との約束なんだ。
新一は今、父親と電話中だ。
なんでも卒業式に来るか来ないかで揉めているらしい。
だから、工藤の親父さんに荷担してやった。

「工藤、いいじゃん。来てもらえば」
「そうよ工藤君。せっかくなんだし」
「うるせーよ。灰原、黒羽」
『黒羽?黒羽快斗君かい?』
「あ?ああ、そうだけど…」
『そうか。……分かった』
「えっ、ちょっ、父さん」
『じゃあな、新一。卒業式に』
「まっ……」

ツーツーと電話が切れた音がする。
新一は乱暴に受話器を戻してリビングに戻った。
快斗と哀が此方の様子を見ていた。

「電話は終わったの?」
「ああ。結局来ることになったし」
「仕方ないわよ。おじさまとおばさまよ?あなたが勝てるわけないわ」
「でもよ……」
「諦めなよ、工藤。来てくれるだけいいだろ?」笑顔で快斗が言うのに新一と哀は黙り込んだ。
快斗が言うと、重みが違うのだ。
哀が言っても同じくらい重いだろうが…。
快斗は父親を亡くしてるから…。
あの日、KIDの正体に気づいた日、新一と哀はKIDの目的を聞いている。
パンドラという夢物語のことも…。
快斗は、これを知った時どんな想いだったんだろう。
そんな馬鹿げたものの為に父親の命を奪われたことを…。
意識して無理矢理考えを逸らす。

「そうだな。たまには付き合ってやるか」
「ええ、そうね…」
「がんばれ〜。工藤」
「人事だと思って」

その時は気づかなかった。
これが、嵐の幕開けだと…。







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