†溢れ出した気持ち†





ごめんね…
もう、抑えきれないんだ…
何も言えないのに、
この気持ちを出してしまってごめん…



†溢れ出した気持ち†



センター試験当日。
試験も無事に終わった帰り道、桜の木の並木道を通り抜け新一と快斗は歩いていた。
春になったら桜が見事に咲くだろう。
綺麗だろうなと想像してちょっと笑う。
隣を歩く新一は、にこにこ笑顔だ。

「なぁ、黒羽。テストどうだった?」
「あぁ、できたよ。工藤は?」
「俺もできたよ」

にこにこ笑う新一に快斗は内心どきどきしていた。
鉄壁のポーカーフェイスでなんとか表情は完璧な笑顔だ。
東都大は、学力もさることながら家から歩いて通える距離に在ることが選んだ最大の理由だ。
そんな理由で選ばれたと知ったら、大学側も高校の教師たちも泣くだろうことは想像に難くない。
もうそろそろ工藤邸の近くに来た。
笑って話しながら漠然と思う。
俺は、何をしてるのかな…。
騙してるくせに側にいるなんて…。
好きだって思うなんて…。
俺に、そんな資格ないのに…。
笑顔のポーカーフェイスを張り付けて君の側にいようとしてる…。
公園を突き抜けている途中、新一が不意に快斗に笑いかけた。
あぁ、もうダメだなって思った。
その笑顔を見た瞬間、心が溢れてきた。
運の悪いことに誰も人がいない。

「――黒羽…?」
「―――っ……」

その笑顔に惹かれて、快斗は新一にキスをしていた。
触れるだけの優しい切ないキス…。
ゆっくりと離れて、呆然としている新一に快斗は泣き笑いのような顔を浮かべた。

「――ごめん、ね…」

ごめんね…。
抑えきれなくて…。中途半端なままじゃダメなんだって分かってたのに、俺逃げてたんだ…。
自分の気持ちから…。
ダメだって思いながら、本当は心の何処かで逃げてた…。
だから、さようなら――。

「ばいばい…」
「く、……待てよ!!黒羽」

去ろうとした快斗に、新一はとっさに体が動いていた。
新一もいきなりのことに混乱していた。
今キスされた…、と考えてボンと赤くなる。
それでも、必死に快斗の服を掴んで一生懸命止める。
なんだか、遠くに行ってしまいそうで怖かった。
知らない人みたいで、離れて行ってしまいそうで、それだけはイヤだと思った。

「さっきのことなら、気にしてないから…。だから――」
「ごめ、ごめんね。それだけじゃないんだ――。ごめん…」

振り向いて抱きしめて肩に頭をコツンと乗せる。
ごめんね…。
嘘ばかり吐いて…。
いつか、別れるまでの執行猶予なのかな?これは…。
離れなければならない俺への罰…。
俺は、君のことを傷つけることしかできないのに…。







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