暗闇の中に浮かぶ蝋燭の灯りの中で、快斗は自分にかしずく人影に、儚い微笑を浮かべた。
ずっと闇の中で生活して来た快斗にとって、彼女たちは“楽しい話”を聞かせてくれる、唯一の存在だ。
「“キッド”様。お食事をお持ちしました」
「どうぞごゆるりとお召し上がり下さい」
丁寧な物言いで快斗に話し掛ける二人の名を、“宮野志保”と“小泉紅子”という。
志保と紅子は、快斗に外の世界を教えてくれた。
産まれて直ぐに、親から引き離され閉じ込められた快斗のために。
けれど、快斗はそんな生活にも一切不満は抱いていなかった。
快斗には、優しく支えてくれる存在がいたから。
「ありがとう、“哀ちゃん”“風音”」
「キッド様のためですから」
「私たちは、あなたにお仕えできてとても嬉しく思っているのですから」
艶然と微笑む紅子に、くすりと笑みを浮かべる志保。
身分の差から志保と紅子には、快斗の名を呼ぶことはできない。
二人にできるのは、ただ快斗のそばに居ることだけ――。
だから二人は、快斗を“キッド”と呼ぶし、いつでも敬語だった。
そして、快斗も志保を“哀”。
紅子を“風音”と呼んでいた。
どんなにそばに居ようとも、名を呼べない。
それは、いつも快斗の笑顔を曇らせた。
けれど、何故か今日は嬉しそうに笑っている。
「どうかされたのですか?」
代表して訊ねた志保に、快斗は薄く笑みを浮かべた。
「何か……いいことがありそうな気がするんだ」
快斗の視線は此処から外へと繋がる、“もう一つの扉”に向かっていた。
そこには、一般生徒が頻繁に通り抜ける広場がある。
快斗の視線を追った志保と紅子は、どうか快斗がこれ以上傷付かないように…。
そう祈ることしかできなかった。
「そうですか。いいことがあるといいですね」
「ありがとう、哀ちゃん。風音」
快斗は嬉しそうに笑うと、志保と紅子が用意した料理に手を付け出した。
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快斗が出れないよ!
早く快斗を地下牢から出して上げたいのに(´・ω・`)
早く来い、新一。(お前が出せ
2011/11/01 23:21