あの子は番長



初めて会ったのは中学2年生の時。その日は調度1年生の入学式で、面倒だと思いつつも学校を休むつもりも更々ないので俺の足は学校を目指していた。
ところが学校近くの路上を通りかかると俺は足を止めた。何やらたかられてるみたい。どうせ新入生なんだろう、覗いてみるとあら大変。馬鹿そうな男共に囲まれているのは女の子じゃないですか。
入学して早々たかられるなんて中々ありませんよ。正義のヒーロー気取りではありませんけど、東校の制服を着たあの子は仮にも学校の可愛い後輩だ、助けましょう。
俺は一歩足を出した所で強い殺気を感じた。誰だ、こんな強そうな殺気を発しているのは!とウキウキしながら見渡すも男共からは感じられない。不思議に思った次の瞬間、男が1人その場に倒れ込み次々男が倒れていく。残ったのはたった1人の女の子でした。
あの殺気はこの子から出ていたのか。既に女の子からは殺気は感じられず、興味なさそうな顔で両手をパンパンとはらっている。
「なぁ、そこの隠れてる人」
女の子の目線はこちらを向いていないが、多分俺だろうと返事をする。
「何で女の子が襲われそうなのに助けないんですか」
「俺には必要なさそうに見えましたけど」
「まあ、そうですけど」
冷めたように発したその子の目から物悲しさを覚えた。
「お名前はなんて言うんですか?」
「真冬」
いい名前ですねと言うと疑わしげにこちらを睨む。よく名は体を表すと言いますが、自分より一回りも大きな男共に囲まれるめ冷静でいて冷たい、とてもぴったりな名前だと。
「アンタは?」
仕返しのつもりで言ったのか、いや何も考えていなさそうだ。
「舞苑です」
変わった苗字だね、と一言感想を述べると真冬さんは歩き出した。入学式に行くつもりだろうか、後を着いていくことにした。
歩きながらたわいもない話をした。
「俺を真冬さんの子分にしてください」
何の脈絡もないが、思い切って言った。真冬さんは少し黙り込み、やだよとだけ返した。
「何故ですか」
「何でさっき出会ったばかりのよくわからない人を子分にしなきゃいけないのさ」
ごもっともな意見だ。
でも真冬さんの顔は少しだけ嬉しそうだ。これはと思い、その後何度もお願いしたら観念したらしく子分にしてくれた。



「それじゃあ先輩なんですか」
真冬さんは俺を同級生だと思っていたらしい。「なら真冬さんは変じゃないですか、舞苑…先輩」
「俺は真冬さんの子分ですから」
「そうだけどさ」
納得がいかない、という顔。親しくなればなるほど真冬さんの表情が豊かになっていく。
「真冬さん、これからよろしくお願いしますね」
「…うん」
ほらまた、嬉しそうな顔をして。体の底で独占欲がむくむくと湧き上がる。いや、だめだよ。この人はきっと俺の手の届かないところに行ってしまうから。



その後、俺の勘は正しかったようで、真冬さんの強さは瞬く間に知れ渡りいつしか東校のトップとなった。そして退学転校と、本当に俺の手の届かないところに行ってしまった。
新しい学校では普通の生徒として生活してるらしく中々楽しいみたいだ。
また真冬さんのところに遊びに行こうかな。今度はちゃんと会いに行くから、沢山構ってください。



―――――
真冬の初めての子分が舞苑だったらな、という話。
真冬さんの子分の舞苑は真冬さんが大好き。







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