Take to me.真冬さんの子分になってもう1ヶ月。俺もかなり仲良くなったつもりだったんだけど、早坂先輩と比べて俺への愛が足りないと思う。だから俺、真冬さんを試すことにした。初めはただの好奇心からだった。 いつもならみんないるからいいものを、早坂先輩と忍先輩は飲み物を買いに行って不在。広い部室が更に広く感じる。さて、折角真冬さんと二人っきりなのだから、真冬さんを試してみようかな。 「真冬さん!俺、雪岡先輩のいる生徒会に入ります」 というのは真冬さんの愛を試す嘘なんだけどね。真冬さんは何て言うかな、驚くかな、焦るかな。俺に何て言うんだろう。 「アッキーが入りたいならそれでいいんじゃない?」 予想外の台詞に唖然とした。あれ、なんだこれ。ふざけて言っただけなのに。なんだか胸の辺りがモヤモヤして気持ち悪い。 あの場から逃げ出すように、トイレと言って部室を出た。近くにベンチがあったので、取り敢えず座って落ち着くことにした。だめだ、モヤモヤする。考えれば考える程胸が締め付けられるように苦しくなった。 「どうしたんじゃ、渋谷」 背後からここら辺じゃ聞き慣れない方言が聞こえた。こんな言葉使うの一人しかいない。 「…なんだ雪岡先輩ですか、お呼びじゃないですよ」 今先輩を構ってられる精神力はありません。貴方の相手も結構疲れるんで。 「なにおう!心配しとるのじゃろ!話してみたらええけん」 「いやですよ、何だか面倒だし」 「渋谷は本当、私に対しての扱いがひどいのう!」 「本当…ひどいですよ真冬さん」 あの人には俺ってどうでもいい存在だったんだ。 「ああ、風紀部の黒崎かい。見かけからしてがさつそうじゃのう」 「俺、雪岡先輩のとこに入りますって言ったんですよね」 「えっ生徒会入ってくれるん「嘘ですけどね」 「そしたら真冬さん、何て言ったと思います?渋谷が入りたいならそれでいいんじゃないですよ?」 「それの何に不満なんじゃ」 「不満とかじゃなくて、俺はふざけて言っただけなのになんで本気にするんすかね」 「不満たらたらやのう」 「だから不満じゃ…」 「じゃあ何でそんな必死になっとるんじゃ、渋谷は」 必死? また俺は期待してしまったのか。 もうしないって決めてたのに。 真冬さんなら止めてくれると思ったんだけどなぁ。 というか、止めて欲しかったのか、俺。 「取り敢えず部室に戻ります」 「もうちょっとここにいてもええんじゃがの」 「遠慮しておきます」 本当に扱いがひどいのう!! 「ここにいたのかアッキー」 「あっ忍先輩」 「黒崎と早坂がお前を待っているぞ、早く行ったほうがいい」 「わ、わかりました」 その場に忍先輩と雪岡先輩を残して走り出した。 もしかして、真冬さん…いや、考えるな。期待してしまうから。出来るだけ無心で早く部室につけとばかりに足に念じた。 長い廊下の一角に風紀部はある。 「真冬さん!」 勢いよくドアを開けて、部屋の中を見回した。部屋の割に人も物も少ない部室だからすぐ見付かる筈だ。なのに、いるのは早坂先輩だけで、真冬さんの姿は見当たらない。 「渋谷、黒崎は?」 「俺部室にいると思ってたのでわからないです、一体どこに行ったんですか?」 「由井がお前を探しに行って俺と黒崎はさっきまで待機してたんだけどよ、佐伯のとこにいるかもっつって出てったまま帰ってきてねぇんだ」 早坂先輩は頬杖を付いてめ息を一つ。もう慣れたけどよ、なんて言っている。早坂先輩はいつも真冬さんと一緒にいて大変なんだろうな。それより真冬さんだ。真冬さんを見付けないと。「…俺、佐伯先生のとこ行ってきます!」 来た道をまた走っていく。数学準備室ってどこから行けば近かったっけ。背中の方で、早坂先輩が何か言ってた気がするけどもう遠くて聞こえなかった。 「くそ…何でこんな走らなきゃいけないんだ」 額には汗が滲み、足が棒になってきた。疲れた。 曲がり角に人影を見付けた。もし真冬さんを知っているような人なら見たか聞いてみよう。影はみるみる近付いてきた。 「佐伯先生!」 「真冬はもう行っちまったぜ」 開口一番に聞きたいことを言われる。この人はよくわからない。 「…もう、なんなんですか」 部室にいると思ったら数学準備室でそこに行ったらもういない…?元気にも程があるでしょ…。 「それより渋谷、黒崎に何かしたのか?」 「どういうことですか」 「俺のとこに来たと思ったら、お前がいないって知ったらすぐどっか行っちまった、すげえ顔してたぜあいつ」 どういうことだ!?もしかして真冬さんすげえ怒ってるんじゃ…。 「右」 「は?」 「右の方行ったぞ」 佐伯先生は俺側から右の廊下を人差し指で示した。 「あ、ありがとうございます!」 佐伯先生って、案外いい人なのかな。やっぱりよくわからない人だ。それよりどうしようかな。真冬さんめちゃくちゃ怒ってるんじゃ…。何て言えばいいかな、ドッキリでしたなんて言ったら殴られそうだし。殴られたこと、ないけど。 走りながらぐだぐだ考えていると見覚えのある小さな姿。真冬さんだ。 「真冬さん!」 ずっと走っていたせいか、馬鹿みたいに大きな声が出た。放課後の人のいない廊下だったからいいものの、もし人がいたら穴があったら入る。 「アッキー…!」 真冬さんは振り返ってすぐこちらに近付いて来た。少しだけ息を切らしている。 「…本当に辞めちゃうの?」 「……は?」 真冬さんは別に怒っていなかった。 「アッキーが生徒会に入るって言って出て行っちゃって、本当はアッキーの気持ちを優先すべきだってわかってるんだけど、急というか心の準備がまだというか…」 「それって俺に生徒会に入って欲しくないって意味ですか?」 「そりゃね」 ああ、もう。 最後の最後にこんなに喜ばせてくれるなんて。ちょっとずるい人だよな。 「ま…真冬さん…!!」 「うわっどうしたのアッキー抱き着いたりして」 思わず真冬さんを正面から抱きしめてしまった。やっぱり真冬さんは俺が簡単に抱きしめられる程小さな女の子だ。 「ねぇ真冬さん」 「なに?」 「俺、生徒会に入ったりなんかしませんよ」 俺はずっと真冬さんの傍にいるからそのかわりに、 俺にもっと愛をください。 ――――― 風紀部は期待されなくて楽だけど、特別扱いじゃなくていいから早坂と同じ位の愛が欲しい渋谷と口止めが面倒だから生徒会に入られるのは困るな、と考えていた真冬。勿論仲良くなったのに敵になるのはやだとも思ってます。 渋谷から見れば早坂はずるいな、と思うわけです。 |