今すぐこの仮面を取って、君を抱きしめたいと何度思っただろうか



「最近ウサちゃんマンに会ってねぇな」
ぽつり、肘を付きながら早坂くんがぼやいた。ここ一年でウサちゃんマンに会いたい、は早坂くんの口癖となってしまった。

実際、クリスマスデート以降はウサちゃんマンで早坂くんと接触してないから、そろそろ半年会ってないことになるのか。早坂くんが元気ないのはいやだけど、そうぽいぽいウサちゃんマンにはなれないよ。ごめんね、早坂くん。




「会ってやりゃあいいじゃねぇか」
数学準備室でコーヒーを啜る鷹臣くんは全く以て他人事のように話す。ウサちゃんマン関連だからって、鷹臣くんに相談する私は間違っていたのかな。

「簡単に言わないでよ」
「なに、クリスマスの時だってバレずに済んだんだろ、今後また早坂にぐずられても面倒だしな」
まあ別に、私も早坂くんに限ってウサちゃんマンの正体を見破るなんて思ってないけど。ないんだけどね。
「それにお前いいのか」
「え、何が」
「この機を逃すと、今度いつ早坂と遊べるかわかんねぇんじゃねぇの」
鷹臣くんの的を射た発言に、思わず口をつぐんでしまった。と同時に事実に泣きそうになる。いや別にいいんだ、早坂くんは忙しいんだからしょうがないよ。ほら図星だ、と言わんばかりに鷹臣くんはにやりと笑った。


もうウサちゃん仮面をつけて、顔が重くなるのと視界が狭くなるのは慣れてきたようだ。そんな慣れもどうかと思うけど。自分に少し絶望しながら歩いていると、向こうから「ウサちゃんマ〜ン」と叫びつつ大きく手を振って駆け寄ってくる人影を見付けた。言うまでもないけど、早坂くんだ。本当に君の神経はどうかしてると思うよ。デート中もウサちゃんマン、ウサちゃんマンと少々鬱陶しさを感じるが、それでもエスコートは上手い。ここまで他人に気遣うことが出来るなら、ウサちゃんマンではなくもっと他に優しくすべき人が身近にいるんじゃないの…!
悲しくなるので考えるのをやめた。
「もう6時になるわね、そろそろ寮の門限もあるし帰らなきゃ」
「そうですよね…」
あからさまに落ち込むのは卑怯だよなぁ。だって、甘やかしたくなるじゃん。でもだめだよ。私はウサちゃんマンだから。
「そうよ、決まりはちゃんと守らなきゃね!」
「はい、でも」
でもの後が聞きたくない。今すぐ耳を塞いでしまいたい。
「もうちょっと一緒にいたかったです」
切なそうなその顔が、私の心を乱した。
「ヒーローは助けにやって来るからこそヒーローなの!君が助けて欲しい時に呼べば私はいつでも助けに行くわ!何故なら私はウサちゃんマンだから!」
そう、私は早坂くんのヒーロー、ウサちゃんマン。真冬であっても真冬でない。早坂くんには私は真冬じゃなくて、ウサちゃんマン。真冬じゃない。
どこか、ウサちゃんマンになってしまいたい自分がいた。私がウサちゃんマンなら早坂くんが寂しくないように、いつでも可憐に登場してみせるのに。それでも私はお面を被った真冬だから、そんなこと出来なくて。早坂くんを笑顔にさせることが出来るウサちゃんマンが羨ましくて。





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ウサちゃんマンに嫉妬する真冬とウサちゃんマン大好きな早坂くん

ウサちゃんマンは真冬だけど真冬はウサちゃんマンじゃない







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