呪い、誘拐、独り善がり


お前のためにと買ってあげた蒼いブローチも、薄汚れた作業着の代わりに買ったブランド服も、どれも要らないと蒼井は言う。受け取りさえしない。わざわざ俺かお前のためにと思っての行為なのに、この仕打ちはなんなんだ。感謝されても良い筈だ。


そんなことを伊佐奈が一人でぐちぐち言っていると、華はやっと重い口を開いた。


「何で無駄なものばかり買ってくるんですか?」
「無駄?お前のために買ったんだ、無駄は失礼じゃないか」
「必要のない物を買ってこられても私は迷惑です!」
「小娘のくせに生意気だな」


ぐわりとコートが鯨のように変形する。


ふと、蒼井の方を見る。蒼井は目に涙を浮かべていた。涙か、俺はどれ程昔にそんなものを流したんだろうか、全く思い出せない。
そんなこととはどうでもいいが、こいつ、蒼井は何故逃げないのか。逃げられないのか。俺には分からない。


そういえば俺かこいつを連れて来た理由は人間に戻るためだ。呪いを知っててなお動物と一緒にいる変わった人間、それが蒼井華だった。ただそれだけだ、他に意味はない。俺が人間に戻ればそれでいい。そうとだけ思っていた。だから、俺が人間に戻ることか出来たら解放してやると言ってやった。そうしたら今まで散々動物園に帰してと喚いていたのが嘘のように無くなった。
あれ以来、こいつは俺の傍にいる。どれ位になるか、覚えてないが。それでもとけない呪いにイライラして手をあげたこともあった、今でもある。こいつはこれじゃあとけるものもとけませんよと言った。


気まぐれにコートを元の状態に戻す、当然蒼井は驚きの表情を浮かべていた。感情が顔に出やすくて、分かりやすい奴だ。だからと言ってこいつの気持ちが分かる訳ではないし、分かろうともしていない。


「伊佐奈さん」
「なんだ」
「ありがとうございます」
「は?」
だがこいつの発言はたまに意味が分からない。
「よく出来ました!」
「…馬鹿にしてるのか」
「ちっ違いますよ!呪いをとくには動物達と仲良く団結して水族館を運営していかなきゃいけないんです!私はその第一歩なんです、頑張りましょう!!」

そんなに俺と一緒にいたくないのか。早く動物園の奴等のところに行きたいのか。俺は蒼井の気持ちが分からない。

「また手をあげるかもな」
「そうかもしれませんね」
「何度もあげるかもな」
「…何が言いたいんですか?」


俺を嫌わないでくれ。そんなこと俺が言う筈ない訳だが。「…大丈夫です」
蒼井はにこりと微笑んだ。
「何がだ」
「何でもないですよ!」



これからも分からないだろうな。
独り善がりはどこまでも。
好きだなんて、言わない。


――――――
イサ華みたいなの。
独りよがりな伊佐奈とちゃんと支えてくれる華ちゃんというリクエストでした。




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