そして私は涙を流す



館長室の中には華のうめき声と華を傷付ける音が響き渡る。
「…痛っ!伊佐奈さん!伊佐奈さんやめて…」
髪の毛を捕まれ、蹴られ、殴られ、華はすでに痣だらけだ。痣と言っても今日の分だけではない、伊佐奈による華に対しての暴力は毎日のように続いた。

「華は俺の事好きか?」伊佐奈は聞く。
「好きです」と素直に答える華。
伊佐奈はそれを聞くと同時に微笑んだ。



「本当は俺のこと好きじゃないんだろ?」



それはただの作り笑い。もう何度も何度も見てきた。仕事中と怒っている時の感情表現。じゃあその怒りは何処から来るのかと思えど、私は知らない。


「違う、私は伊佐奈さんが好きです、好きじゃないなら伊佐奈さんのとこにいません」


そう、事実私は伊佐奈さんが、好き。なのに彼は分かってくれないようだ。実際問題、私は伊佐奈さんに暴力を受けている。


「嘘だ!」
伊佐奈の足が華の腹部を捉える。
「だってお前が!お前がお前かお前が!!俺のことを人間じゃないなんて言ったんだろ!!」
何度も何度も蹴った。
華は激痛におそわれ、うめき声しか出ない。意識も朦朧としてきた。
「人間でもない、鯨でもない、俺は何だ!!!」
何度も蹴る。
「そんなバケモノ好きになる奴いる訳ねぇよなぁ!?」
何度も。



薄れる意識の中でも、伊佐奈の言葉はハッキリと聞こえた。
確かに言った。人間じゃない、と。すごく酷いことを言った。でも伊佐奈さんは伊佐奈さんだよ。伊佐奈さんが好きだよ。人間じゃなくても、鯨じゃなくても、バケモノでも、伊佐奈さんが好きなんだよ。



わかって、くれないかなぁ……。




華は意識を失った。












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