理解不能


「なあ、蒼井」
「何ですか、伊佐奈さん」
「水族館来ない?」
な、何言ってんたこの人!
「え!急になんですか!?」
「ヘッドハンティングみたいなもんだよ」
伊佐奈はそう言いながら頭をなでる。
「わ、わわわ私、ドジですし…伊佐奈さんが私を動物園から引き抜こうとする理由が分からないですっ」
本当にわからないよ、この人の考えていること…不安になりつつ伊佐奈の頭がどうなっているのか考えてみた。
だめだった。
「分からなくていいだろ」
「分かりたいですよ」
また、一人でいるつもりなんですか?
そう問いたいが、いけない、それでは怒らせてしまうと華は出かかった問いを飲みこんだ。
「多分お前には重要ではないだろうと思うし」
「いや、重要でしょ!自分のことなんですから!!」
なんとかして、それは食い止めなきゃ。そう思うけど、私に何が出来るんだろう。
「知らない方がいいと思うし」
「えっ知らない方がいいんですか!?」
え、そうなの!?…いやいや、惑わされないで!私でも何か出来るかもしれないじゃん!頑張れ私!
「だから来いよ」
「え…それはそれこれはこれですよ」動物園のことがあるし、ね。


華が顔を上げると伊佐奈の顔が一瞬、冷めたような悲しいような顔をした気がした。



「…じゃあいいや、いらない」



「…何ですか!それ!!」
背筋が寒くなる。
「何が?」
「いらないって…さっきまでいるって言ってたよね、何で、何でいらないなんて言うの!!」
そんなこと言わないで。
「お前が拒否したから、これ以上言っても拒否されるだけでだからそれならもう関わるのはやめようと思っただけだ」
「だから…私にした理由を教えてくれないとどうしようもないんです!本当に答える気無いんですか!?」
「そういう訳じゃない」
「じゃあどういう訳なんですか?」
「すごく私情だから」
「私情でも何でもいいから答えて下さい!」
外道なこと言われたら泣くな。
「俺は…」








「お前が傍にいればいい」


外道とは違う意味で泣きそうになった。
「うっ…」
華は泣きだしそうなのを必死にこらえた。
「…?」
気付かない伊佐奈。どんだけ恋愛に関して鈍感なんですか。
「ふっあぅっ…あぁああああ」やっぱり堪えられなかった、泣きたくなかったのに。
「泣くなよ」
伊佐奈か諭す。
「すいません、でも…あの、はい」




「私は伊佐奈さんの傍にいます!」「本当か…?」
「はい、あ、でも水族館で働くつもりありません!個人的に伊佐奈さんの傍にいたいです」
にへら、と満足げに答えた。






伊佐奈も笑っていた。


――――――
伊佐奈さんが何でもいいから華ちゃんをそばに置きたい話。




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