日常の中の非日常




その日はいつもと同じような時間から掃除をしていていつもと同じような空模様で、

私はいつもと同じように何もない所で転んだ。

「…あいたた」
ああ、今日もまた転んだ。
本日4回目の転倒、いつもと変わらないドジ。
「おい、飼育員」
上半身を起こした所に聞き慣れた声がかかる。
「シシド君!」
シシド君から声をかけられることはあまりないから少し新鮮で、ちょっと嬉しい。
「どうしたの?」
私は嬉しくてにこにこしながら言った。
「…」
スッと差し出されたシシド君の右手。
「…あ、握手?私なんかで良かったら」
「ち、ちげーよ!」
軍手をはずしズボンで手を拭っていたら怒鳴られた。
「…じゃあ何?」
「ほら」
「え?」
「手、捕まれよ」
「あ、うん」
私が差し出した右手はシシド君の右手に握り締められると身体ごと持ち上げられた。
いつまで尻餅ついてんだ、とかまた椎名のヤローに人参投げ付けられるぞ、とか言い訳みたいな台詞並べられても、赤くなったシシド君の顔を見たら効き目が全くないなんてこと、シシド君は気付いてないんだろうな。
「おい!」
「なにーシシド君」
私の顔、ニヤニヤしてるかな。
「早く、放せよ!」
照れて真っ赤になるシシド君、何だか変な感じがする。
「やだよ」
「放せ!」
「いやだよ」
何だか、放したら勿体ない気がして、この非日常が無かったことになる気がして、

おうむ返しみたいに同じ質問に同じ解答を繰り返していると、シシド君は押し黙ってしまった。

「シシド君」

「何だよ」






「ありがと」



シシド君の頬っぺたが林檎みたいに更に赤くなった。
今だけ君と手を繋いだままで。
――――――
31話を読む前に書きました
シシ華シシおいしいです
自分が華を好きだって自覚してないままあーだこーだするシシドと華が好きです
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