ロス♀
「起きてください、勇者さん…」
風鈴のような、爽やかで優しい声が聞こえる。
柔らかい指が腕を掴んで、何だか柑橘類のような香りが…そこまで考えて彼女に気づいた。
「おおおおおおはよう、ナマエ!!!」
「吃りすぎですキモチワルイ」
ベッドの縁に腰掛けて、宝石のような、夕暮れの空のような緋色の瞳が見下ろしていた。
どこか掠れたような声が、なんとも言えず色っぽくて。
「勇者さん、あなた本当に朝弱いですね」
ちょっとだけ拗ねたように、ジトっとした目で見つめてきて。それも可愛いなんて思ってしまう僕は、相当彼女にゾッコンなんだろうか。
「あー…ごめん…?」
「いろいろ試したんですけど、全然起きないんですもん」
「色々って、何したの!?」
「ついてもいない胸を隠さないでください気持ち悪い」
思わず体を隠すと、珍しくツッコミがかえってきた。
気持ち悪いという言葉に傷つきながらも、上体を起こして伸びをする。
「で、何を試したの?」
「擽ってみたり、頬を抓ったり…ああ、それと上からジャマダハル投げたりとか、ちょっとだけ気道塞いでみたり、あと…」
「もうやめて!僕が寝てる間に殺人未遂みたいになってるから!!」
「…本当はもっと遊びたかったんですけどね」
朝食はできてますから、早く来てください。
目を逸らしながらぶっきらぼうに言い放つと、無駄のない動きでキッチンのある部屋へ歩いて行った。
黒い綺麗な髪を揺らしながら歩く姿は、どこか微笑ましくて。
「何だか新婚みたいだ」
思わず口に出してしまい、苦笑いを零した。
その後、顔を真っ赤にしたナマエに愛(予想)のクゲストされたのは、また別の話。聞こえてたのか。
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