アルバと魔族の子
左手に収まっているガラスの容器の中には、紫色の清涼飲料水。
その中で湧き続ける気泡は、地球から見た星のようにきらきらと輝きながら、短い生涯を終えて行く。
清涼飲料水の海越しに、目の前の彼を見つめる。
柔らかい茶色の髪が、海に飲まれて黒く見えた。
「この気泡を見ていると、何だか人を見てるみたいです」
「・・・何だそれ」
少し遅れて返ってくる返事、それには訝るような感情も混ざっていた。
ストローでくるりとかき混ぜると、しゅわしゅわと先程よりも多く湧き出る星屑に、眉間に皺がよったのがわかった。
「こうやって、湧き出ては消えて行くなんて、まるで人の一生みたいじゃないですか」
目から零れた透明な絵の具は、海を染めることはできなかった。代わりに、一層多くなる星屑の数。
止まってくれ、一心にグラスを傾ける。
中身は完全には無くならず、4分の1程の紫が、未だ生涯を終えて行く。
「レンヤ、泣かないで」
同情なんていらないのに。
そう呟くと、悲しそうに顔を歪める。
「同情なんかじゃない」
ガタン、酷く冷たい音を立てて、彼、アルバさんが座っていた椅子が倒れた。
その音に驚いて肩が跳ねる。
伸ばされた手を避けずに、見つめる。
「泣かないで、笑ってよ」
するりと頬を撫でた手は、右手を包み込む様に重ねられた。
「好き」
涙声で、かすれた声で紡がれた言葉は、再び僕の涙を誘うには十分過ぎた。
清涼飲料水の海は、炭酸が抜けて甘すぎる糖液に変わっていた。
でも、いつか貴方も(炭酸のように消えて行くのでしょう?)
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