“革は、もう心配をかけたくなかった。母さん、仍、そして巳束に。俺にはちゃんと友達がいるから大丈夫だ ”
「おはよう、革」といえば「巳束、おはよ」といつもと変わらない笑顔で、挨拶をしてくれる。
“側にあたしもいるのに、革はやっぱり言ってくれない。だけど革には優もいるから大丈夫だと、思っていた ”
* * *
それは、あたしの耳にも入っていた。「隣のクラス、やばいよ」っという声がすれば「知ってる、糊でしょ?あれ酷いよね」と誰かが言っている。
「見た見た!机と椅子一面に糊ってねー」っと笑っているものさえ。
「それが何!知ってる?無関心っていうのも虐めのひとつなの!」と気付いたら、叫んでいた。「ひそひそっと陰口叩く暇があるなら、英単語のひとつでも覚えなっ」と。
いても立ってもいられなくなり、あたしは自分のクラスを飛び出した。「巳束っ!!」と呼ぶ声が聞こえたが、走っていた。
「革、」と捜せば、彼を事務室の前で見つけ出す。用務員のおじちゃんに物を借りているようだ。
あたしもおじちゃんに「同じものをひとつ!」っと言えば、革に「な、何してんだ巳束!?」と驚かせてしまったようだ。
「糊、けずるの手伝う。革が止めてもやるからっ」
頑なの意思を見せつければ、溜め息をひとつして「分かったよ」っと言ってくれた。
「お前には、負けるよ」っと革は言っていたが「当たり前でしょ」と笑って教室の前まで来たが足を止めてしまう。
教室から聞こえてくる会話が、あたしたちの足を動かせなくしてしまったのだ。門脇とその取り巻きのようなことをしているやつら、そしてその真ん中にいたのが優だった。
「僕も、最近ウンザリしてたんだよね」
それは信じていた優の声。耳を疑いたくもなる。
「しっかし、おめーもよ、糊かけすぎだっつーの」
「だって門脇がやれって、急に」
「まぁ、お前もこれで俺らのダチな!明日から協力しろよな」
聞こえてくる言葉に思わず飛び込んで蹴散らしたくなるが、革がそれをさせない。
強く握った拳を上かぎゅっと握ってくる。だけどその手は確かに震えてる。そしてあたしの顔をみて横に首を振る。行くなっと、告げるように。
「うん。なんかさ、やっぱああいうの関わるのってヤだから…」と優がいえば近くにいたやつが「オトモダチだったんだろ――」っと笑っている。
「まさか、日ノ原とは最初から友達なんかじゃないよ」
それを聞いた瞬間、革は手にしていた工具をガラ――ンっと投げつけ走り出す。あたしは、目の前の壁をドンっと叩けば「最低っ」と口にして革を追い掛けた。
「な、なんだ!?」と中にいたものが廊下を確認したがそこには誰も居なかった。ただ門脇は「巳束、」と呟いていた。
* * *
信じていた、優に裏切られた…。あたしでさえ、こんなにも辛いのに革は今どんな気持ちなんだろうか。
その後ろ姿を追い掛ければ「ハハハハッ!!バッカみてぇ俺――」と空に向かってアハハハ!!っと叫ぶ革が目に映る。
今のあたしには、何って口にして声を掛けていいのか本当に分からなかった。笑って、横に並ぶことができない。だけど、側にいたい。
革は、なにもかもどうだっていいと思っていた。
“門脇も、優も、どいつもこいつも消えちまえ”と“いや、いっそうのこと俺が消えちまえば――”っと。
そう過る頭に自分の名を呼ぶ声に気付く。“アラタ”っと。それは何回も。誰でもいい俺を…
「革?」
何かに気付き曲がった彼を追うように、あたしもその建物と建物へと入り込んだ。少し不気味な路地裏。微かだが、誰かが“アラタ”と呼んでいる。
吸い込まれそうになる感覚に、おかしいことに気付き「あらたぁ――――っ!」と叫ぶが、その声は届いていないようだ。
このままじゃ、革が消えそうな気がして風を切るように走り、彼の背中に飛び掛かっていた。消してはいけないっと。
そのまま流れ込むように、あたしは革と一緒に崩れ落ちた。
* * *
ドンっと鈍い音がした。
「革!革、しっかり」と声を掛ければ「って!!」っと革が呟く。何か天井らしきものに打つかってしまったのだ。
「巳束か?あれ、いつのまに」
「あたしにも、何が何だか」
現状を把握しようとも暗闇すぎて、何も分からないのだ。狭い空間にふたりがしゃがみ込んでいることと、分かるのは側に革がいることだけ。
その時だ、また“アラタ”っと呼ぶ声が聞こえる。その方向を向けは微かな光がある。
革もその声に気付いたようで「あの声…、この先から?」っと告げれば、メキッと何かが壊れる音がしたのだ。
そのまま、メキメキメキッと壁らしきものが壊れて光が差し込んだ。「まぶしっ」と革と一緒に顔に手を当てれば、ドンッと何かに押されるような感覚になった。
「えっ!?」
「な、何!!!?」
革に続くように立ち上がれば、目に飛び込んで来たものは古代遺跡のような建物。そして周りのものが木々であったことに気付く。
「どこだよここ…!?」
それは夢で見た景色なような、ものだった。けど、今は夢じゃない。
「嘘、何これ――――っ」
始まりにしか過ぎない
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