学校の帰り道に、仍ちゃんに会えば「巳束ちゃん、今日家くるよね?」っと聞かれる。最近、お邪魔していないこともあって寂しいっと言われてしまったのだ。
その言葉に「先週お邪魔したよ」と返せば、毎日じゃないです!っと言われてしまった。

「じゃあ、仍ちゃんに甘えて行こうかなっ」
「やったぁ――!!」


日ノ原家に伺えば、革ママが「あら、巳束ちゃんおかえり」と言ってくれる。“いらっしゃい”じゃなくて“おかえり”の言葉はくすぐったくていつも慣れない。
「ただいまっ」と言えば、仍ちゃんが玄関にある靴の多さに「お客さん?」っと聞く。

「革が友達、連れてきてるのよ!」
「え!?お兄ちゃんが友達っ!!巳束ちゃん、行くよっ」

革ママの言葉に“上手くいってるんだっ”と安心をすれば、隣の仍ちゃんは吃驚をして、それと同時にあたしの腕を引っ張る。
あたしの腕を引っ張る仍ちゃんに「ど、どうしたの?」と聞けば、お兄ちゃんの部屋を覗きましょう!っとのことだ。
どうやら優と同じクラスの人たちとゲームをしているようで、それを観察するあたしと仍ちゃん。

「ところで日ノ原、あれって誰?」と言って一人の同級生が仍ちゃんを指せば、もう一人が「あれって隣の天海さんだよな!な、なんでお前ん家に居るんだ」っと騒いでいる。

「巳束ちゃんはやらん!平均60点どもっ」と仍ちゃんが叫べば、革に「黙れ」と叩かれていた。

「オヤジにもぶたれたことないのに…!!」
「どこのガンダム芸人だ、下行ってろ!」

二人のやり取りクスっと小声で笑い「ごめん、邪魔しちゃって」と謝れば「いいよ、どうせ仍だろ。原因」と革は言った。
部屋ではズルいとか、紹介しろよーっと何やら騒いでいたが、とりあえず仍ちゃんと一緒に降りることにした。
仍ちゃんは、先ほどのことを「おかーさん」っと言って告げれば“よかった”っと口にする。
二人とも気にしていたのだ。正義感が強くて優しい革があんなことになるほうが、おかしかったことに。

「何、喋ってんのかな?」っと革が仍ちゃんに、チョップを頭上に食らわせれば「母さん、みんな帰るって」と言う。

「あら、ゴハン食べてけばいいのにー」
「大丈夫だよ、母さん!その分、巳束が食ってくだろっ」
「もちろん!」

その言葉に、革と一緒にあたしは笑っていた。


“巳束ちゃんがいてくれたおかげもあるけど”っと、付け足すように「最近、お兄ちゃんよく笑うようになったよね」と仍が言う。
革の母も「そうね、もう大丈夫ね――」っと、革と巳束を見守るように言った。



 * * *


朝から、クラスの女の子たちが騒いでいた。1-D、つまり革のクラスなんだが「隣に、転入生が来たって」っと。
入学式前に事故で骨折入院でっと言っている子に「それ、転入生でなく元々のクラスメイトでしょっ」と呟けば「あ、そうかぁ―っ」と笑っていた。
そう言った話には興味がないので、このまま机に伏せて睡眠でも取るかっと思えばその名前に固まってしまう。

「でもイケメンらしく、えっと名前が門脇将人って言ったっけ」

「はっ!!嘘!?」っと立ち上がれば「巳束、もう1限始まるからっ」と言われてしまい、革のクラスに行くことが出来なかった。
忘れもしない、その名前は。同じ中学であり同じ陸上部であって、革を虐めていた張本人。引き籠りへと追いこんだ人物。
「……なんで、門脇が」
そして二人が笑って走っていたときを思うと、物凄く胸を締め付けられる思いになった。

最悪なことにその日は、移動教室や先生に捕まることが多く、革のクラスに行くのが放課後という事態になってしまった。

「革っ!」と声を掛ければ優と帰る支度をしていたようだった。

「天海さんっ」と優に声を掛けられたが、あたしは革に駆け寄り「革、平気っ?」と聞けば手をあたしへと差し出した。


「そんな顔すんなって、大丈夫だっ」


革はそう言って、その手を拳にすればコツンっとあたしの額に当てた。「優と帰るから」っと告げて。
「分かった」っといえば自分の頬に平手を食らわした。あたしが不安がってもしょうがないんだっと。今の革には、優もいるっと。

その騒ぎに、革のクラスで注目を浴びてしまったので「お邪魔しました!!」と告げて去れば、その中に門脇が居たなんて気付きもしなかった。

「なんで、あいつの側にいるんだよ。巳束」



 * * *


革は、けして言わない。だけど日に日に、門脇からの嫌がらせがエスカレートしていったのだ。
その行動に、廊下で会った門脇に「いい加減にしなよ、門脇」と言ったが「これは、俺と日ノ原の問題だっ」と言われてしまう。

「お前もいい加減、気付けよなっ」と去り際に門脇に言われてしまう。何に、気付けだっ。

あれは、いつだったか。二人は競うようにいつも走っていた。そんな姿をあたしも側で、同じように走って感じていたんだ。
大会直前の、部活内のタイムで、門脇は「今のわざと落としただろ――あわれみかよ!!バカにすんじゃねーよ!!」と叫んでいたことは知っていた。
そこから、ひとつひとつ何かが狂いだしていった。






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