「革…起きてるの!?巳束ちゃん、迎えに来たわよーっ」



「入学早々遅刻するよ?」っとその主に声を掛けるが返ってこないことに、あたしに向かって「ごめんね」と革ママが呟く。
新しい制服に袖を通したあたしは、少し緊張しながら日ノ原家の玄関に立っていた。革はちゃんと学校に行くのかとっ。

「入学早々、ごめんね巳束ちゃん。でも本当によかった、また同じ学校で」

安心するように革ママがあたしに言えば「あたしも、一緒の学校で嬉しいです」と告げれば、妹の仍ちゃんと革が降りてきたのが見えた。
革ママが、よかったっと呟けば「また“行かない”とか言うんじゃないかって――っ」と言うが、革は「まさか」と言う。


「行ってきます。ほらっ、巳束も」
「あ、うん!行ってきます」


革のご両親に同じように挨拶をして家を後にすれば、駅へと向かう。
仍ちゃんも途中まで一緒に行くと言って駅まで着いて来れば「友達作るならイケメンにしてね!」っと笑うように言った。
そして小声で「巳束ちゃんに、変な虫つかないように見張るんだよ」と革だけに言えば、ブッと咽ていた。何、言われたんだろう?

「じゃ、巳束ちゃん!絶対に変な男には気をつけてくださいよ―」っと言われ、笑って仍ちゃんと別れれば、電車へ乗りこんだ。

朝の通勤ラッシュで人との密着度は正直きついもので、顔をしかめっ面にすれば「巳束、平気か」と上から覗き込むように声を掛けてくれる。
「ありがとう、大丈夫っ」と告げれば、革は何かに気付いたようで見つめている。あたしもその方向に顔を向ければ、それは伸びる男の手。いわゆる痴漢だ。
革と一緒に、その手の主に「ちょっ…」っと声を掛けようとした瞬間、同じ制服を着た学生の腕が掴まれてしまう。だけど、違うのだ。
掴まれた学生は違うと言っているが、女の人は聞かず「次の駅で降りなさい」と聞く耳を持たないようだ。
思わず革は「あの!違いますよ」と声を上げれば、あたしもそれに続くように「触ってたのソッチの紺の人」っと指をさせば、背広のねっと革が付け足す。
証拠は無いだろうっと騒ぎたてる背広の男に、他の人も「この男です」と言ってくれる人が出始め、その場が治まった。

駅に着けば、間違われた学生の子がありがとうとっと言ってくる。

「もしかして、同じ新入生?」と聞いてくるので「同じだよっ」と革の隣に立って笑えば、一緒に行かないか?っという話になる。

「よかった。俺、同じ高校受けたの他にいなくて」

「え、革…あたしは?同じとこ受けた、ほらっ!」と手を広げ自分の制服を見せれば「ばかっ、男友達でってことだよ」と言われてしまう。
彼にクスクスっと「君たち、面白いね」と笑われてしまえば「誰か、つかまえて!!チカンが逃げたーっっ!!」と叫び声が耳に入る。


「革っ、」
「分かってる、鞄頼む」


鞄を預かれば、革は一目散に逃げようとする男に走り出した。幾つもの階段を、ダッと踏み出し飛び下りればその男に直撃する。
その騒ぎに、周りの人たちから視線を浴びてしまう。駅長はありがとうと告げて駅長室に、っと言うが「入学式あるんで」と革は断った。


革の側に駆け寄れば「悪いなっ」と言って手を差し出すので「いえいえ」と鞄を渡そうとすれば、先ほどの光景に彼は「すっげ――っっ」と驚いているようだ。

「上から飛んだね、すごい運動神経だね!!」
「あ…いや…」

周りからの視線もあり、彼の言葉に革は困惑気味だ。その慌てっぷりにクスクスと笑ってしまうんだが「巳束っ」とコツンと頭を叩かれる。

「俺、西島優(スグル)!よろしくな!!」と彼がいうと「俺は日ノ原…革命の革(カク)で“革”」っと自己紹介をする。
「へ―、なんか名前もカッコいいね!」と優が言えばあたしを見て「えぇっと…」と言われてしまう。

「今、一瞬!あたしの存在、忘れてたでしょ」
「いや、あのぉー革がカッコよかったから…」

あはははっと革は、先程の仕返しと言わんばかりに笑っている。「もういいよ、天海巳束です。よろしく優」と告げた。


 * * *


学校に行けば今朝のチカン騒ぎで、話題は持ちきりだった。だが、残念ながらその本人はいない。クラスが違うのだ。
「革ーっ?」と隣の教室を覗けば、革の周りには人だかりだ。朝の掲示板を見て嘆いた、優は革と一緒であたしは隣のクラスだなんて。
でも“これで良かったのかもしれないっ”という、気持ちもあった。


“革は高校では目立たないことを決めて、中学時の自分を知らない、遠い学校を選んだこと”をあたしは知っていたから。
事情を知るあたしがいない方が、楽かもしれないっと。


少しずつ、あたしも革も学校に慣れていく。革はチカン騒ぎの件があって運動部からの勧誘が毎日、あった。そして自然に人が集まっていた。今日も笑っている。

(……あ、なんか楽しそうっ)
「巳束、どうした?外なんか見てっ」



「ううん、何でもないよ」と言ったが、周りの女の子たちが「あぁー、ひょっとして隣の、例の彼かぁ!?」っと言われ、そうじゃないよー!っと、あたしも自分のクラスで笑っていた。






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