「……っぷ」

「巳束?いきなりどうしたの」

「いや、革らしいなって思ってさ」

目的は、降しに来たのではなくヨルナミのことを聞きに来たことを革は忘れてはいなかった。降し合いでないことは分かっていたが、革自身が忘れていなかったことに、それが嬉しくて巳束は笑ってしまった。
革はスエヒロに、ヨルナミのことを聞きたかっただけで、また大体のことが分かったからという。


「――それに、あんたを降したくない」
「なんだと!?お前、何言って…」
「ヒルコ…“ホントは、寂しかったんじゃないか”」


一緒に働いて実感した。本当は人間(ミンナ)の中に、居たかったんじゃないのかと。革自身もそうだったと。


「あんた…人を“金儲けのコマ”とか“信用できない”とか言ってるけど、そうは見えなかったよ。“スエヒロ”のときのヒルコ、マジ楽しそうだったからさ―――俺も一緒に働けて楽しかった。お世話になりました!」

「な……」


金も銀も人間も手の内で動く。だがスエヒロは、虚しさを感じていた。結局は独りなんだと。
スエヒロは“ホントは寂しかったんじゃないか”と言われたことで、見抜かれていたことに気付かされる。そして革は背を向けて、待っていた巳束たちのもとへ戻ろうとする。


「待て、アラタ!言ってくれるじゃねェか――
 
 なら、ヨルナミ様を降してみな!!」


その声に、革は振り返れば口角を上げてヒルコは告げる。


「もしできたら、俺ら属鞘全員おめェに降ってやるよ!!」
「ヨルナミを降したら属鞘“全員”が!?俺に降るって――!?ヒルコ…!?なんで!?そんな…」
「…もしかしたらお前なら、ヨルナミ様を元に戻せるかもしれねェ――」

その発言に革は戸惑いを見せるが、ヒルコは なんでもない大それたカケだといい、顔を逸らし劍神を肩へと向け自分に納めた。ヒモロゲはその会話に挟もうとするが、決めたことだからと邪魔をするなとヒルコは告げた。

「どうだ、アラタ」

一度、革は飲み込んで側までに来ていた巳束の顔を見つめる。


「…革は決まっているんじゃないの?」

「ああ、そうだな。……俺、やってみる!!」


ヒルコに再度振り返り、意志を伝えればフッと笑う。そのまま、人ごみの中へと去っていくが周りの者たちは“ヒルコ”の為に道を開けた。皆、スエヒロが“ヒルコ”であったことに給付金が減らされるんじゃないかと心配していたのだ。




「あれ?巳束、着替えちゃったのか?」
「え?ダメだった。ジャージの方が楽だし」
「ダメっていうか……」

翌朝、スズクラから出ることが決まって一晩だけ宿舎で泊まり、男女別となっていた革と巳束は邸の前で合流する。革は民族衣装の巳束ではなくジャージ姿になっていることに、肩を落としていた。


「ったく、アラタ!そこは直球で、言えばいいと教えただろ。可愛い姿が見れなくて残念だって言えばいいんだよ」

「なっ……!?」

「えっ?」


上から、声が掛かって来たことによって革と巳束が顔を見上げれば、屋根の先端部分に座るスエヒロとヒモロゲの姿があった。


「フッ、このスズクラから“銀10”払わずに出てけること、感謝しな!」

「ヒルコ!あのさ、提案だけど…少し税金軽くしてみたらどうかな」


邸の窓から沢山の人たちが、革たちを見下ろしていた。“銀10”を払わず出ていくことの物珍しさもあるが、昨晩の一件を知っているからこそ、皆 見守っていた。
革はその者たちのこと思い、告げる。花降(カネ)がたまらなくて、家族に会えない人もいる。せめて働きに見合った賃金を渡せば、働きがいも出ると。それが結果、街の発展になる。


「な…」

「革?」

「それと皆さん!ヒルコ様とは“スエヒロ”のときと変わらない気持ちで、接してみてください!!がめついけど、きっとイイ人なんで――」

「アラタ!!てめ、やっぱ降すぞ!!」


ヒルコは顔を真っ赤にして、口がぱくぱくとなっていたがイイ人と聞いた瞬間、劍神を手にし声を上げた。巳束は、隣で嬉しそうな顔で聞いている。
余計なこと言った代わりにもならないが、と口にし革は認識札の5人分を手にして頭を下げた。


「俺ら全員の儲け足して銀1とちょっと!!少ないけど収めていきます!!」

「……全っ然、足りるかボケェッ!!はやく行けっ」

「ヒルコちゃん、落ちついてっ!」


認識札を渡せば、関所へと向かう革たちにヒルコはあんにゃろと口にするが、その姿に不思議な奴だったと感じていた。
ヒルコは“多花邏(タカラ)”を使い、働く者たちの給付金の数を上げればヒモロゲに心配される。あんなカケもしてヨルナミ様に知れたら――っと。


「もう、ご存じだろ―――」


見上げる空には、雲と一緒に動く何かがそこにはあった。





それが、らしさ――

<<  >>
目次HOME


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -