仕事が終われば、あとは自由時間となる。夜となれば、街は人で賑わう。革は露店を見て回っていた。そこに髪細工の店があることに気付く。
蝶の銀細工をあしらった簪を手にし、巳束に似合うんじゃないかと思い浮かべれば、店主に声を掛けられる。

「兄さん、それはいい簪だよ。オマケして銀1だ!」
「えっ!!………」


露店から離れれば、街の中心で人々が騒ぎ始めていた。手押し車の荷台に大量の膨らんだ袋を乗せて同じ方向へと進む人たちがいる。皆、“早くヒルコ様へと”口にし急いでいた。


「アラタ!あれ、薬みたいさ」
「カナテ!」
「奴らヒルコ邸の従業員、街中の薬屋からかき集めててさ!なんかわかんねーけど、もしかしたらヒルコに近づける…」
「チャンスか!」


宿舎に戻ろうとしていた革を、カナテが発見し声を掛けた。重そうな手押し車を一緒に運び、薬を持っていけば、ヒルコに近づくことが出来ると思い付く。
案の定、ヒルコ邸まで簡単に踏み入れることが出来た。中は、より一層慌ただしく人が動いていて革がヒルコに何かあったのかと訊くが、とにかく急げと言われてしまう。

「うおぉぉぉ、ぐぎいぃいぃいぃいっ」
「ヒルコ様、落ち着いて……うわっ、」

苦痛を訴える叫び声と侍者の泣くような声。仕舞には帳から押し出され、侍者が大階段を転び落ちてくる。
1人の侍者が、今回はとくに酷いと頭を抱えるが、革とカナテには説明をされていないのでさっぱりだった。花降“金”欲しければ命がけでいけと言われ、目の前には押し出される侍者を避けながら2人は帳を開けた。

「ヒルコ様!!失礼しま――!!」

革はヒルコの姿に目を見開いてしまう。片手で侍者を持ちあげられるほどの巨大な肥満体系、ちょび髭を生やした男が、おぉぉんと泣いているのだ。革とカナテは驚きのあまり口が塞がらない。
2人は、ヒルコが劍神を出す前に薬で暴れるのを止めろと言われてしまう。その頃、ヒルコ邸に潜んでいたカンナギがスエヒロと対面していた。

「……あれは、なんの騒ぎだ?」
「ヒルコ様がまた暴れてるようだ。“降す”には絶好の機会かも…ね、十二神鞘カンナギ様!」

スエヒロは十ニ神鞘の“カンナギ様”がなぜこの“スズクラ”に居ると問えば、カンナギに何者だと告げられる。
自分は知っての通り、ヒルコの使用人であるといい、カンナギに革とカナテのどちらが“アラタ”なのかと訊いた。大王を目指して鞘を降していることを耳にして、やはりヒルコ様も狙って?と言うが、カンナギに釘を刺されてしまう。


「…首を突っ込まないほうがいいぞ。我々をカモにして楽しんでいるようだが、あまりナメるな。特に“アラタ”は手強いぞ」


そんな革は、両手足に包帯を巻いて痛いと泣きながら、声を上げるヒルコの現状に戸惑っていた。

「ホラ、お前ら!早く薬を塗って差し上げろっ!!床ズレの上に太りすぎ…イヤ、ともかく痛がってらっしゃる!!」
「床ズレ!?なんで、そんなことに!?」
「ヒルコ様は、このスズクラを仕切る為ここから“決して動かん”のだ!!」

袋の中にあった籠から粘りのある薬をヒルコへと塗ろうとするが、薬は擦れてしまった皮膚の部分には沁みてしまう。その痛さでヒルコは暴れてしまう。暴れた体を革に取り押さえられてしまい、ヒルコは告げられる。


「そんなに嫌なら自分でやれ!!第一、こんな身体になった原因もそこだ。これからは他人ばっか、こき使ってないで自分でちゃんと動け!」

「…なっにっをっ、ワタシだってっ…自由にッ、動きたいんだァァッ!!」


叫ぶと同時にヒルコは腹の中から、これまた巨大な槌の劍神“御食(ミケ)”を手にした。顕れたまえと口にし劍神の力を振るわせた。ヒルコからの攻撃の、巨大なものに激突した革は邸の外へと吹き飛ばされてしまう。


「!っ、…コトハ!今のって、革!?ヒルコ邸から!?」
「行こう!巳束!」
「うん!急ごう!」


ヒルコ邸の騒ぎは館内が揺れ、外へは爆発による衝撃により何かが起こっていることを感じさせた。それを目撃した巳束とコトハは邸へと急いだ。
劍神“御食(ミケ)”の攻撃は、巨大な食べ物を放出して行なう。対象の相手の口へとその食べ物が勝手に入っていく。革は口に入ってくる食べ物に、もがきお手上げとなる。ヒルコは“動けない辛さ”を存分に味わえと告げる。


「ワタシは“完璧”に仕事をやり遂げなきゃなんないの!!そのために痛くても、一歩も動かずにひたすら働いているのッ!!ヨルナミ様に殺されちゃうんだから――っっ!!」


ドンっと轟音ともいえるひと振りをヒルコがすれば、また食べ物が革へと襲いかかるが、それは一瞬のうちに消えてしまう。


「悪いけど、ちょっと口に合わなかったな」


革は劍神“創世”を手にし、ヒルコの攻撃を吹き飛ばす様に無効化させた。ヒルコへと“ヨルナミに殺される”とはどういうことだと訊くが、革が鞘であることに慌てるだけで答えようとはしない。


「――そこまでだ!!相手が“アラタ”じゃあ、おめぇに勝ち目はねえよ“ヒモロゲ”」

「え、スエヒロさん!?」


屋根部分の鬼瓦に、足を掛け腕を組んで見下ろすスエヒロの姿があったのだ。




その者と対面

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