「それで…‥上手く繋がりました」
「え?」
「えっと、あの…あなたの本当の名前は」
「…あ、ややこしいけど俺ら名前、同じなんだ。“日ノ原革”…革だよ」

コトハは体を起こし「納得しました」と口にし、俺に向き直った。

「革がいつも巳束さんを見ていたことも、巳束さんも同じように見ていたこと」
「それって、どういう」
「巳束さん、言っていましたよ……巳束さんの大切な人は、今走っている。前を向いて。ご自分のせいで躓きさせたくないと」

指を差しながら、コトハに告げられ、俺は思わず目を見開き自分を指差した。巳束が、俺を?―――

「行ってあげてください、巳束さん、もしかしたら雨の中待っているかも」
「え?それって、どういうこと」
「さっき食事を運んできてくれた方に言われたんです、お付きのお譲さんがまた雨が降っているのに出て行ったって。きっと言ったら、アラタ様…じゃなくて、革は追いかけるんだろうな?って思っちゃって」

少しだけ いじわるしちゃってごめんなさいと口にし、言葉を付け加えて、背中を押すように俺を押し出した。


「優しさとか責任感とか、本当に見た目だけじゃなくて――アラタ様に似ているんだもんなぁ」

コトハはアラタ様じゃなくて、革に少しだけ惹かれていたのかなっとボソッと居なくなった背中を思い出して呟いていた。


 * * *


「巳束―――!!巳束っ!!」

振り続く雨の中、名前を呼んでも返ってくる声は無い。どこに向かったのかは分からないが、立ち止まって考える時間が惜しく走りながら巳束の名前を呼んだ。

少し離れた場所に大きな樹があることに気付く。そして 巳束がいることに。
俺は、膝に顔を埋めて座る巳束を前から覆い被さるように抱きしめた。

「ばっか、なんで雨宿りをかねて泊ったのに、自分からまた雨に濡れるようなことしてんだよ」
「革?…‥どうして」
「心配させんな。って、おい?泣いたのか…巳束」
「なんで、ここにいるの?コトハは?」

目の端に残る涙の跡を指でなぞり、俺はもう一度 巳束をギュッと抱きしめた。


「巳束……俺、お前が好きだ」
「え……」
「こんな状態だからこそ、自分の気持ちにはっきりさせないと大切な人が傷つくって……怒られたよ、コトハに」

腕の中にいる巳束は、混乱しているようで「え、あっ」と途切れ途切れの言葉を繰り返している。


「でも、革…怒っていたんじゃないの。ナグのこと……あたし止められなかった」

「止められなかったのは、俺だよ。巳束は側にいてくれたのにごめん怒鳴って

 やるせなかった自分に呆れていたんだ。なのに俺 巳束を傷つけるようなことして…」


抱き寄せて、巳束の耳元で喋れば「くすぐったい」と言われ、その距離を離されてしまう。


「そうだよ、…‥革、コトハにキスされてファーストキスだとか、違うのに動揺しちゃって!浮かれてバカみたい…、」
「だからそれは…‥え、巳束との保健室って夢じゃないのか?」
「えぇぇ―――――――!!」

保健室の言葉を聞いてあたしは、革の腕から離れるように立ち上がれば手を掴まれてしまう。今度は、背中から抱きしめられた。雨で冷え切ったはずの体温が熱を感じている。

「巳束が、あの後 普通に接するから夢だと思っていた」
「だって、恥ずかしかったから」
「お前だけ、ずるいよな。俺、夢だと思っていたんだから……‥だから、もう一回しよ」

その言葉に耳を疑った。「もう絶対に迷わないから、巳束っ」と耳元で囁かれれば、体を正面へと向き直され触れるだけのキスをされた。
それが、恥ずかしくて目を反らせば、頬に手を添えられて額をくっ付けられる。

「こっち、向けって」
「っ…、どうだろ?革の変態は今に始まったことじゃないし」
「おいっ、巳束」

くっ付けられた額を離されて、革に頭で小突かれる。少し痛くてそれを口に出せば、あたしも革も同時に笑いが零れた。


「ずっと好きだった」
「あたしもだよ」



もう一度、どちらからともなく唇を重ねていた。
イトシミ

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