結局、門が塞がれていて、窓も雲の壁となっていて出入り口というものがなかった。子供たちに懐かれてしまい、ここに泊まることになってしまう。
「すっかり、なつかれちゃいました。やっぱり寂しかったんでしょうね」
「……………」
「そーいや、ミツカいないけどあいつ飯いらないのか?アラタ、俺食べてもいい?」
「ダメに決まってんだろ!」
周りを見渡してみるが、巳束がいない。戸の近くから、ひとりで覗く男の子に気付き「こっち来てみんなと食事――」と声を掛けてようとすれば、奥に引っ込んでしまう。
その子はナグだった。ナグは妹以外とは口を聞かないから放っといていいと、別の子たちがいう。先程、巳束と一緒にいたのもあり俺は追いかけることにした。
「なぁ、巳束 知らない?」
ナグの後について行けば、部屋のベッドで眠る巳束を発見した。ベッドの縁に座り、ナグはその顔を覗いている。
「ったく、こんなとこで寝てたのか…」と起こそうとすれば、ナグは両手を広げて俺を止めた。ナグは顔をフルフルと動かすだけで何も言わない。
「わかったよ。あ、これ…ナグ、食べるか?」
お椀を差し出すが、同じようにまた顔を振った。ここから出られないことや大人たちがいないことを聞いても何も言ってはくれず、革は床に寝そべった。
「(そーいや俺も、こんなふうに誰とも口きかない時期あったっけ。中学ン時…)」
門脇の一声に合わせたように巳束以外の部活の全員が俺と目を合わせなくなった。そのうち、クラスのみんなも。ほかのクラスの小学校のときの友達も。
見ているだけで中には笑っている奴もいた。周りが異世界みたく歪んで見えた。たまたまだが、体調不良で休んでいた巳束を巻き込むことはしたくなかったから距離をおいた。
いつ終わるか分からないゲームは負けたら最後だ。あいつに心配を掛けたくない。お前らのために死んだりするもんか。
家族には知られたくない、父さんや母さんにそんな目に遭っている息子だと思われたくない。あいつにも平気だと言って、プライドだけで、いくらでも俺は陽気な演技ができた。
でも 「ねえ、革…」 「学校で…なにかあるんじゃない…?巳束ちゃんも、心配しているのよ」 母さんの一言で、なにかがコトンと外れた。
なんでそんなこと言うんだよ 「革、逃げてちゃ始まらないだろ!」 もう十分戦ったよ、あんたが行け 「先生に相談しようか!?」 やめろよ、余計ひどいことになるだろ、わかれよ!!
何を言われても、言葉を返すのも億劫になって自分の部屋から出ようともしなかった。しばらくして誰もドアを叩かなくなった。
口が言葉を忘れかけてきた頃、急に焦りがきて、もしかしたら俺は見捨てられてしまうんではないかと思ってそのドアを開いた。ドアの前には誰も居ないのに、なぜか 巳束が「おはよう」と言ってドアの前に座っていた気がした。
「革の好きなコンソメスープ作ってたの!」
「……………」
「…ねえ革。お母さん、ハラ決めたの!革がね…やりたいようにやんなさい!巳束ちゃんも待ってくれてる……
革が自分の意志で…動けるようになるまでいつでも待つよ!革のこと信じてるから!お母さんたちは、どんなことになろうと味方だよ!」
毎日、自分の体調が悪かろうと、毎日来て、俺の部屋の前で何も言わず巳束は待っていた。信じて、待っていてくれたと言う。
差し出されたコンソメスープは体の芯を温め、心を優しさで包み込んでくれた。それは、心の底からでた言葉「おいしい」
「母さん―――――」
ぺたっと触られる感触に目が覚めた。ナグが心配そうに顔を覗きこんでいた。一枚の布を出して、俺の顔を拭いてくる。
「ちょっ……」
「…ナグ、革のこと気に入ったみたいだね」
「え?巳束、いつ起きたんだ?」
「さっきだよ」
声を掛けられた方へ顔を向ければ巳束がベットの縁で座っていた。いつかの、おはようと同じように「おはよう」と言って。
笑っていた巳束を引っ張って、ナグが床へと促して俺の側に座らせる。そしてお椀に入ったご飯を口にした。巳束にも、食べるようにと差し出して。
そんなナグに対して巳束も、嬉しそうに笑っている。
しばらくなら「父(トト)様」やってもいいかなと思うと同時に、この子らの親、「大人たち」はどうしたんだろうと思った。
「アラタ、来い!お前もだ、ミツカ!」
「は!?」
「えぇ、あたしもですか!?」
いきなり現れたカンナギに、俺と巳束は首根っこを掴まれるように引っ張られる。どこに連れていくのかと言っても、大人しくついて来いと言うだけで。
だから、ナグとナルが2人で話し込んでいたことは知らない。
「ナグ、あのお姉ちゃんとお兄ちゃん気に入った?」
「…わかんない。ナルが気に入ったんならそれでいいもん。もし…だめでも、僕らには“オトナ”がいるから――――」
コドモノセカイ
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