お題


上級生に良い先輩がいれば、悪い先輩もいた。
好きで走っているのに、何が気に食わないのかよく部活中に茶々を入れてくる。
そして革と門脇が部活内で先輩たちを抜いて好タイムを出してから、酷さが増していった。


「お前ら一週間ほど部活禁止な、十二分に反省をしろ」

そう先生に告げられていたあとのことを、偶然にもあたしは聞いてしまったのだ。

「くっそー、あの日ノ原ってやつと門脇のタイムが伸びやがって。俺らの調子が悪くなったじゃねーか」
「そーだよな、いっつも他のやつらに贔屓にされやがって」
「この際だから、明日の部活出来ないようにするか?」
「あぁー!それいいな、朝にでもやるかっ」


(な、最低!!……朝練さえも、めったに来ないくせに)


 * * *


案の定、その二人の上級生は朝練よりも早い時間に部室にやってきていた。部室に入るなり、部室内を荒らしていく。
あたしは、窓から覗くように中を見るがあまりの酷さに携帯の録音ボタンを押した。
中の二人は、革や門脇のロッカーに鍵が掛かっていることに声を苛立たせていた。

「あー、なんでこいつらちゃっかりっと鍵閉めてんだよ!!」
「まじか!おい、貸せ」

募る苛立ちにロッカーごとぶち壊しそうな雰囲気になって、あたしは声を掛けてしまう。


「先輩たち、そういう悪ふざけ止めて頂けませんか?」

「「てめぇー!天海、何して!」」

「何しているんですか?は先輩たちですよね」っと言って携帯を手に持ち「しっかりと録音させて頂いてますから」っと見せつけた。
その言葉にロッカーを殴りつけるように音を立て、あたしの手を掴むように伸ばしてきたがそれを避ける。


「っち、お前も前々から気に入らなかったんだよね」

「そうそう、しかも一人で来ちゃって何様のつもり」

薄気味悪い顔で近付いてくるその先輩に「それ以上近付けば、叫びますよ」っと呟くが、ニッと二人は笑っている。その顔に、悪寒が起こり鼓動が速くなる。

「ここに来るのって練習バカだろ…でも、今日は朝練は学校集会があるからって休みになったの知らねえの?」
「しかも、まだ早い時間帯でここの部室棟は校舎から離れている」

後ろ向きに開いているドアへと一歩ずつ近付こうとすれば、誰かに手を握られ一気に後ろ手を引かれてしまう。
その勢いに「えっ」と軽く尻を着いてしまう。だけど、目に入った姿に安心した。


「居ますよ、ここに休みになっても練習するバカが」
「ちょっと待てー!俺がバカなら門脇も練習バカだろうが!!」

あたしを庇う様に入り込んだ門脇と革の姿に、二人の先輩たちは「「てめぇーら!」」と声をあげた。


「あ!先輩たち、先生に朝練すること伝えたんでそろそろ来ると思いますけどどうしますか?」
「内申、響きますよね。きっと」


先輩たちは「覚えてろよ!」っと去り際に告げて、そそくさと逃げて行った。その言葉に「誰も覚えておきませんよ」っと門脇は呟いていた。


「バーカ。何、上級生相手にカッコつけてんだよ」
「そうそう、もっと俺らを頼れば?」

二人の背中越しに聞こえてくる門脇と革の声に「ありがとう」と呟いた。


「「……心配させんな、馬鹿」」


そう告げられ二人は振り向き、いつまで座っているんだっと手を差し出してくる。

「ごめん、っていうか!あたし、今日が朝練無くなったの知らないんですけど」

あたしの声が響いたのか、耳に手を当てながら門脇は「あー、こいつの連絡ミスな」っと隣に居る革を指差した。

「ちょ!革ー!!」
「巳束に言うなって。でも門脇も俺も練習するのは決まってたんだからさ」
「ふ―――ん」

そう呟けば、あたしの前を行こうとする二人の間を抜けるように「二人とも、あそこまで競争!」っと声を掛けながら走り出した。


「よし!日ノ原、負けたらジュース一本な!」

「その勝負乗った!!」




お前は女の子なんだから……心配させんな、馬鹿

(おい、日ノ原……あの先輩たちの話、俺らも聞いていたこと言わなくていいのかよ)
(いいよ、偶然しとけば)


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