お題
小さい頃は気にしなかった。だが、だんだん思春期っという言葉を覚え始めると周りの目が変わる。
それは名前の呼び方。呼び方ひとつで、周りの目は色々だった。「革」っと呼べば、友達に聞かれてしまう。「日ノ原くんと付き合っているの?」っと。
だから、呼び名を変えようと決めたはずだった。
「巳束!!」
人の気も知らずに、廊下を駆けてくるのは幼馴染みの日ノ原革だ。
「日ノ原くん、だから前に!」
「習慣になっているもんだからしょうがないだろっ」
そう言ってニッと笑うのは革だ。だけど、事は起こってしまう。
ニ、三日前に告白をしてきた名前を知らない男の子に「ごめんなさい」とあたしはお断りをした。
「お前、そうやっていい気になんなよ!やっぱ、あの噂の日ノ原と付き合っているって本当だったのかよ」
投げ捨てるように言われた言葉。男の子は言うだけ言って去ってしまう。
弁明も出来ず「…付きあってもいなんだけどな」っと、誰もいない校舎裏で虚しくそれが響いた。
* * *
「おはよー」
普段と同じ時間に、教室に入れば嫌な視線とヒソヒソ声の多さ。扉でその光景に戸惑えば、友達が「巳束ちゃん、あのコレって」っと声を掛けてくる。
その先にあるのは黒板にデカデカく書かれた“相合傘に、日ノ原と天海”の文字だった。
「ちがうよ、日ノ原くんとは幼馴染みなんだって…」
「へぇー。この間お前が振ったやつがそんなことは一つも言ってなかったけどーッッ」
ヒソヒソ話をしていた中心の男の子が声をあげて、そう告げる。その声に、友達が「ちょっと!巳束ちゃんは何一つそんなこと言ってないでしょ」っと口にする。
「だいだい天海さんは、日ノ原のことを苗字でアッチが名前で呼んでのも変だろ」と言い返してくる。その男の子は、ニ、三日前に振った男の子の友達らしい。
言い掛かりに等しい言葉に、段々怒りっというものが湧きあがりそうになれば、教室のドアがガシャンッ―――っと音が鳴る。
派手な音に、教室の全員が一斉に振り返りドアに顔を向ければそこには話の話題になっているもう一人の人物が立っていた。
「革?」っと声を掛けてみるが、聞こえてないようでそのままズカズカっと教室へと足を踏み入れ教卓の前までやってくる。バンっと教卓を叩けば声をあげた。
「お前ら、僻みか?名前呼びたかったら呼べばいいじゃねえか!?んなもん、幼馴染みの特権だろうが」
それだけ言ってしまえば「そうだよね、僻みとか情けないね」っと女の子たちから声があがり、周りの視線はその男の子たちに変わった。
革はあたしの手を取り「行くぞ、巳束!!」と教室を出てしまう。
「ちょっと、待ってって。あれじゃあ、革に何かするんじゃ!!
それに革にも何かあったんじゃ?」
(同じ内容が黒板に書かれていたことを隠しても、隣のクラスだからなぁ…バレて怒るのはきっとこいつだし)
あくまでも、大したことのないように「あーあったよ……同じ内容の。俺は平気だから、気にすんなよ」っと革は告げる。
「……ごめんね」
「だから、何ともねえから。それよりも、もう苗字で呼ぶんじゃねえぞ」
「え?」
革は立ち止まり、体をあたしの方へと向きを変える。
「巳束に、日ノ原くんで呼ばれるのは今日の黒板のやつより気持ちが悪ィからよ」
「失礼な――――――ッッ!!」
言った瞬間に手を離し走りだした革に「待ってえぇぇぇ!!革―――っ!!」と口にしながら、あたしは追いかけるのであった。
お前が傷つく方が嫌なんだから。俺は平気だから、気にすんなよ
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