先程まであった、豊かな村は跡かたも無く焼け野原と化していた。目の前には、何もない。
受け入れる、受け入れないの前に、全てが嘘であって欲しいっと膝から崩れかけてしまう。手の平を開いて見れば、食い込んだ爪により薄っすら赤くなっていた。
「なぁ…巳束、何が“大王”なんだろ。何が―――」
「……うん」
革が呟いたこと。それは革が、話したい訳じゃない。きっと、自問自答している。
横に立つ革を見上げれば、その顔はカンナギに向けられていた。
立ち去ろうとするカンナギに「あなたが拾ってくれたのは感謝してる。それでも!!…オレはこんなの許せない…ッ!!」っと、ホニは声をあげた。
何も言い返さない、カンナギの姿は傷の多さで痛々しかった。コトハは傷の多さに「傷を、私、采女族だから」っと手を触れようとしたが、それを払った。「――いい!俺に…触れるな!!」っと。
その瞬間、パンッ―――――っと音が響く。あたしは、頬を打つってしまっていた。
「何、反らしてんの。
自分がしたことに、目反らしてんじゃないよッ!!」
掴みかかろうとすれば、革があたしの肩に手を置きカンナギから離せば、逆に「落ち込んでんのか?」っと自分が詰め寄った。
「アカチに自分の劍神…“火焔”を奪われたからか?それとも、オヒカさんやほかの属鞘を降されたから?
分かってたんだろ?こうなるって、分かってたんだろ!?」
カンナギが秘女王を斬って、これは始まった。
「政権交代のために――“大王の位”が欲しいためだけに!!十ニ神鞘全員で秘女王を裏切って!!」
秘女王がいなくなれば、鞘同士で“降し合い”になることは、この国の者なら誰もが予想できること。その結果が、惨殺。成れの果て。
「あんたの属鞘のオヒカさんは、いい人だったよ!!会ったばかりの俺たちを信用し護ろうとしてくれた!!」
そして、カンナギのことを最後まで信じていた――――
革は掴みかかった手に、力を入れて「あんたはっ!!その信じてた属鞘も裏切ったんだ!!それがなにへこんでンだ、ざけンなッッ!!」っと叫ぶ。
その手をバッと払い除ければ、カンナギは「貴様になにが分かる!!俺たちはずっと、秘女王(アイツ)に抑えつけられてたんだ!!」っと声をあげた。
「秘女王が弱り、新しい女王と交代するあの機会を逃したら、またくり返しだ!!
俺は“火焔”を自由にしてやりたかっ…―――――」
だが、カンナギは右肩を押さえ言うのをやめてしまう。顔を歪めるだけで。
背を向け、今度こそ立ち去ろうとするカンナギに、ホニは「カンナギ様!!待てよ!!」っと声をあげた。
「ホニ!ムダだ、あいつは…」
止めようとする革に、ホニはキッと睨めば「…あんただって、鞘“ツツガ”を降したくせに!ツツガの生命(ミタマ)を劍神に取り込んだ…アカチと同じだ!!」っと口にする。
「“鞘”なんかキライだ。なにが“大王争い”だ、…人殺し…!!」
ホニの言葉に、革はその場を離れてしまう。その背中を追いかければ「アラタ」っとカナテも駆け寄って声を掛けた。
革も同じ“鞘”であるからこそ、これからどうするんだっと問い掛けていた。秘女王に“世界を束ねろ”っと言われたことは、つまり“大王”を目指すことじゃないのかと。
カナテに革は「“大王”なんかなんねえよっ!!俺はアカチと違う!!」っと声をあげていた。
「ミツカは、アラタには何も言わないのさ?」
一定の距離から見守っていたあたしにカナテは言うが、あたしは首を横に振った。
「俺、コトハちゃんたちのとこ戻るけど」っと告げるカナテに「あたしは、心配だから」っと言って、革の後を追った。
秘女王の告げた言葉に悩み、革は海の見下ろせる場所まで来ていた。
崖から、崩れ落ちた石に反応して劍神を構えるが、そこにいたのはガトヤであった男が「アラタ!また、会ったね」っと立っていた。
「そう、君たちのおかげで、あの流刑地(ガトヤ)から出られたよ。ありがとう」
「あの…あんたは、いったい!?」
「ああ、私は秘女族だ。首都(ミヤコ)で教師をしていたんだが――冤罪をかけられてね」
その男は、革の元に行けば秘女族の証といえる左手首にある紋様を見せた。
(秘女族の人…?)
先ほどまでの戦いの緊張により「…今頃…」っとカタカタカタっと震えだす革。
「――偶然見たよ、さっきの戦い…あれは十ニ神鞘 カンナギと…アカチだね」っと、口にし「酷かったな」と男は言う。
革はビクッと揺れ、顔を手で覆い隠す。その言葉を近くの岩陰で聞いていたあたしは、自分の手を強く握り締めていた。
「許せない、あんな酷いこと…ッ!!目の前で、一方的に…っ…!!」
「…“大王争い”が始まってしまったか…、君も鞘なら“降し合い”に否が応にも巻き込まれる。怖かったろうに」
「怖い… でも…
それ以上に悔しい!!いくら劍神を持ってても…動けなかった!!
俺自身が弱いから…力が足りないからだ!!」
革の言葉に「ムリもない、…君は平和に暮らしていたのだろう?」っと告げるが「…平和!?」っと口にする。
学校だって同じだった。何度も傷ついて…でもただ嫌なことから顔をそむけて、通り過ぎるのを待ってた。そんなことのくり返し―――、それは嫌だ。
「強くなりたい!!そしてあいつらを―――、こんなバカなこと絶対止めてやる!!」
「…戦うというのだね?」
革は涙目になった目を擦れば「方法は分かりません!…でも俺は、力ずくのアカチたちとは違う!!」っと口にした。
「誰も降さず!!誰にも降されず!!俺は奴らと戦う!!」
(誰も降さない……)
心に思う、気持ち
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