「…僕がこの“劍神”とかいう剣型(タイプ)の神様の“鞘”に選ばれた…って、なんですか“鞘”って?」

革は剣を手に、マカリに質問をする。

「“鞘”は特別な人間だよ。劍神を操り、神の力を自在に使える。一心同体の――、相棒に選ばれたと思え」
「えっ!?に…人間のほうが神様を操るんですか!?」と革が驚いていた。

一度、革を見た後に、あたしの方に向きを変えれば「名を巳束と言ったね?もしや“ミツカ”…」と告げようとしたとき、コトハの呼ばれる声に話を区切られてしまう。

「とりあえず」っと、招かれたのはコトハの家。

コトハの父らしき人物が「大変なことになりましたね、マカリ様」と言う。そして革には「アラタ様もよく無事で!」っと。
革は人違いであることを告げるが「村の者はアラタ様を信じますよ!」っと口にした。


「本当にここの人たち、“アラタ”っていう人に見えてるの!?」っと小声で呟けば、革も同じようなことを思っているようだ。


近くにいた女の人に「その衣装は儀式できたんですか?そちらの方も儀式で?」と聞いてくる。中身だけ革はアラタに映っているようだった。

「革?」と、隣に座る彼に聞けば「なぁ、何かの力で俺とそのアラタが入れ替わったことらしいが、巳束もか?」と言われる。

「あたしには、分からないよっ」
「そうだよな」

小声で返せば、申し訳なさそうに謝れた。
あたしの頭に浮かんだのは、革の変わりに“アラタ”が日ノ原革として日本に存在している。なら、あたし天海巳束は?誰かが同じように入れ替わっている?の、これだった。


コトハの父が革に「秘女王が儀式中に殺されたのは事実なんですね」と聞くが、革に分かるはずがない。

「秘女って、誰ですかソレ?」
「なに言ってんです、天和国の女王――」
「父(トト)様、アラタ様は神開の森に喰われて記憶がないの!」

剣の神、人喰いの森、女王。「卑弥呼みたいな世界だね」っと呟けば「巳束?そうだな、古代の日本みたいだ」と夢物語であればいいのにっと言うように、革も呟いた。

「しかしマズイ状況だぞ、アラタ様は秘女王殺しの殺人とされてる。捕まれば、処刑は免れまい!」

それは、身の凍る言葉だった。革が“アラタ”になったら命が危ないっということだ。
「――そう簡単に殺されやせんさ」とマカリは口を開けば御神体の“鞘”になったと説明をする。周りの者たちは「えっ!?」と驚いている。

「御神体が…、その古代の劍神が目覚められたのですか!?」とコトハの父が叫べば「…革、もう一度“神意”を見せてくれんか」とマカリは告げ、先ほどの言葉を口にする。

「え?あー…“顕れたまえ”!」

革は、神意を告げる言葉を同じように口にするが何も起こらない。「あれっ」と口にして、言い間違えたか?と考えもう一度言う。

「“腹割れたまえ”!」
「筋肉か、」

何も起こらない状況に周りにいた者は口にする。

「マカリ様ってば!」
「こやつは“鞘”だっ!!たしかに、その劍神から神意を引き出しておった!!」

「あれが神意なら、見ました」とあたしが口にすれば、コトハも「私も見ました!」と告げる。「ほらほらほら!!絶対、鞘!!」とマカリが言えば「強引スね、」と革が嘆く。

「…鞘になるってそんなにすごいんですか?」

マカリは説明する。劍神を自在に操れる鞘は、人間でありながら神と同等。その力によっては領土も治めることが出来る。
その頂点が“十ニ神鞘”と呼ばれる12人。その鞘を更に統率し治める役目が秘女王だ。
「その十ニ神鞘のカンナギ様があきらめたとは思えません!殺される前に逃げましょう」と、コトハは告げる。革を抜きに話は進む。

「しかしどこへ?」
「本当に劍神に選ばれたとしたら手出しできないんじゃ!?」
「だが、さすがに秘女王殺しだぞ!?」


「!、それは革じゃない」

立ちあがり口にすれば「俺には、関係ない!!」と、革も声を上げる。

「俺も、巳束もただの高校生だ、こんな世界知らない!!秘女王とか!劍神とか!鞘だとか!やってもない、容疑者にされるなんて――…」

革は手に持っていた剣を叩きつければ、あたしの手を引っ張り走り出した。コトハが叫んではいたが、返すことなく。
マカリは革の投げた劍神を手にし、思っていた。

“日ノ原革と天海巳束”

革のいう話は信じられなかった。姿形は私の目には今も孫の“アラタ”にしか映らない。ただ先の戦い、鞘に選ばれた姿を見て確信できた。

そなたは私の知っているアラタではない――。

アラタがこの御神体に触っても、何も起こらなかった。まさか“この劍神”があの異世界から来た少年を選ぶとは。そして一緒に居る、巳束の力はもしかしたら秘女族の…



 * * *


そのまま引っ張られ、連れられて来たのは海辺。あたりはすでに真っ暗で何もない。やっぱりここは異世界なんだと実感した。
握られたままの手に「革?」と言えば、「あ!ごめんっ」と離されてしまう。

「悪くないよっ」

今度はあたしが革の手を掴んで、その場に座るように引っ張った。ふふっと笑えば「おいっ」と小声で革が告げていた。

広がる空にポツリっとあたしは呟いた。

「どうして、こんなことになっちゃたんだろうね」
「巳束は、もしかしたら巻き込まれたって思わないのか?」

革の顔は至って真剣、そのもの。


「分からないよ。でも、そう思わない。あたしはあのとき、革が消えそうで怖かったから――」


あたしの言葉に革は「悪い」というが、首を横に何度も振る。
あたしは自分の携帯にあるストラップを外して、革に「あげる!」と言って渡した。
革の手にあるのは“勾玉”が付いたストラップ。それを見て革は「これは?」と言う。

「ソレ、お守り!昔言ったことあったよね、あたし拾われた子だって。そのときに勾玉の首飾りをしてたみたい」

そして、付け足すように「首飾りだとあたしが持たないからって、おじいちゃんが加工してなんとか持たせようとした結果がコレっ」と告げる。


「なら、俺が貰う訳にはっ」
「ちがう、あたしが革に持ってて欲しい。さっき巻き込まれたかもって革が言ったけど、あたしは革の側にいたいと思ったから!だから巻き込まれたなんて、思わないよ」


返そうとする革の手をあたしが上から手を重ね、それを止める。

革がそこから、あたしの手を引き寄せて何かを言おうとしたが「アラタ様――っ!!」というコトハの声に止まってしまう。
コトハは走り駆け寄れば、後ろから革に覆い被さる。「っちょ、ああの!?」と革は慌て、あたしは「コトハさん、ストップ!!」と言う。
しゃがみ付いた状態でコトハは「私はそばにいますよ!!アラタ様が記憶戻るまで!」と言った。

「あ!待って!革が、窒息しちゃうから離れて」
「わかった!わかったから!!」

革は、ばっと離れるがコトハは何かに気付いたようで革の襟元を掴めばガッと開ける。
「アラタ様、ミチヒノタマは?秘女王から頂いた大切な玉なのに…」と口にすれば「えっと……スイマセン、とりあえず」と革は言う。
しょうがないっと言えば、コトハは自分のしていた勾玉の首飾りを革につけようとする。
革は巳束から貰ったストラップを手に「ご、ごめん」と言って返そうそするが、それをあたしが止めた。
「きっとアラタに対して、あげたものだから」っと告げれば、革も納得をしたようだった。

「さっきカンナギ様から助けてくださったとき、すごくカッコよかったですよ!」

コトハが言った言葉にあたしが「よかったね、あらた様」っと付け足せば「おい、巳束」と革に小突かれてしまった。


「罪人がのんきに女を両手にいちゃついている場合か」の言葉と共に現れたのはカンナギだった。声の方へ顔を向ければ「しかも、うまい具合に劍神を手放したままでな」と告げる。
周りを兵に囲まれてしまい、革はそっとあたしを自分の方へと引き寄せた。カンナギの手に“劍神”が無いことに気付く。逃げれるかもしれないっと思ったとき、カンナギの腕から劍神が現れたのだ。


「アラタ、秘女王殺しの罪で貴様を首都まで連行する!!」

革に剣先を向ければ、あたしにも「隣の女、お前もだっ!!」とカンナギに告げられるのだった。




非現実的に、現実

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