「――樹先輩っ、」


校門へと足を向ければ、怜は待っていますと告げていたように、心配する顔で待ち構えていた。

「ありがとう。待ってってくれて」
「いえ、僕こそ……すみませんでした。出過ぎた真似を――」
「怜くんは、謝ることしていないよ」

怜は、樹の泳げなくなった時のことまで言ってしまったことを詫びるが樹は顔を横へと振る。俯いたままの怜に、樹は気にするなと言うようにその背中を叩いて笑った。

「帰ろうっか?」
「はいっ!」


“改めて優しさを”


練習が終われば、再び怜のことが話題となっていた。連絡無しで休むことも、部活自体を休むことも珍しく真琴は終始心配をし、怜のことを察した渚は、多分大丈夫というが、凛と会っているならっと違う意味で心配をしていた。そんな中、笹部コーチが怜の様子を見て来いと、千円札を指で挟んで告げるのだった。


「マコちゃん、イツキちゃんから返事あった?」
「ううん。具合のことメールしたけど、樹ちゃんから部活を休むってきた以外、メールが無いんだよね」
「イツキちゃん、お昼は普通だったのにね」
「俺とハルが先に部活に行っちゃって、放課後の樹ちゃんを見ていないからね。午後になって悪くなっちゃったんだよ、きっと」

電車内で頻りに携帯を気にしていた真琴へと渚が声を掛ければ、目的地の駅のアナウンスで聞こえてくる。渚と怜の、地元の駅だ。

「怜のお見舞いの、コレで良かったのかな?」

手に持ったコンビニの袋を掲げて真琴が口にすれば、渚が「うーん。千円じゃ、メロンは買えなかったらねぇ〜」と駅に来る前に寄った、八百屋のでの出来事を思い出していた。後ろを歩く遙が、食あたりのお見舞いに食べ物を買ったことや、渚の行動に疑問に思ってしまうことがあった。

「渚、怜は本当に食あたりなのか?昨日、俺が話したことで悩んでいたんじゃないのか」
「えっと、多分……って、あぁ!!」

怜のことをどう誤魔化せばいいのかと、渚は言葉を濁そうかと迷っていれば反対側のホームで電車を待つ樹の姿に気付いてしまう。

「どうした、渚?」
「えぇ?渚、いきなり何!?」
「ほら、あそこ!あれって、イツキちゃんじゃ」


――鮫柄から帰り道、岩鳶まで送ると言われたが怜の最寄駅を通りすぎてしまうことに気付き、樹は断った。乗り換えのために 怜と別れて電車を待っていれば、自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくることに気付く。


「よかったよ、樹ちゃんに何事もなくて」

目の前には、ニコッと笑う真琴とジッと見つめてくる渚と遙がいる。三人を目の前にして、嘘を付いたことに申し訳なくなる。そして、ここにいる理由を探そうと樹は戸惑ってしまう。

「でも、どうしてここに?」

「えぇっと、その……」

「真琴、樹の話はあとだ」

「そうだね。これから、怜の家に見舞いに行くんだ。だから樹ちゃんも、一緒に行こう?」

真琴は手に持っているコンビニの袋を掲げて、怜の家に行くことを告げた。樹は二人の発言に戸惑えば、コソッと渚が耳打ちをする。二人とも怒っているワケじゃないよ、と。確かに先に歩く遙も真琴も、いつも通りで変わりがない。

「渚、怜くんのお見舞いって…?」

「今日 レイちゃん、部活休んじゃって咄嗟に食あたりって言っちゃったんだ。イツキちゃん、ひょっとしてレイちゃんと一緒だった?」

隣を歩く渚の言葉によって、樹は足を止め小さく頷いた。渚と樹の会話は小声で、遙と真琴には届いてはいないだろう。怜のことを言っていいのか分からない樹は、三人に今言えることを口にした。

「……ごめんなさい。お腹が痛くなったっていうの嘘で……」

自分の足元に顔を向けて謝れば、視界に遙の足元が入る。ポンっと遙が樹の頭を撫でるように手を置けば、肩に真琴が手を置いた。

「心配するから、もう嘘は止せ」
「そうだね、心配したよ」
「ごめんなさい」

立ち止まっていた足を進めるようにと、渚が怜のお見舞いに行くんだよと樹の背中を押した。渚に、怜と一緒だったことを伝えているので、お見舞い?と疑問に思ってしまうがニッと笑われてしまう。


「吾朗ちゃんに“ちょっと様子、見て来い”って言われてるからね!」


近所であり怜の家に何回か行っている渚に、道案内をしてもらいながら辿り着く。鳴り響いたインターホンのあと、玄関を怜が開けた。


「あれ、皆さん?それに、…樹先輩も?」

「やっほー、レイちゃん!おじゃましまぁーすっ!」


慣れた様子で、渚は怜の部屋へと入っていく。先ほどまで一緒だった樹がいることに怜は困惑し、樹が申し訳なさそうに目線を送った。

「どうしたんですか?皆さん、揃って……」

「怜が休んでたから、お見舞いに来たんだよ」

真琴の言葉に、怜は戸惑い、渚はフォローするように側によって口にする。

「あぁ!その様子なら、大丈夫そうだね!ゴウちゃんたちも心配してたよ。吾朗ちゃんなんか、試合前の大事な時期に何やってんだーって!」

「…心配、してくれたんですか?」

「当たり前だろ」

「怜が部活休むのって、初めてだからね。渚ならまだしも」

「うぇええ!それって、どういう意味!」

怜の言葉に、遙が告げれば 樹も、皆も同じで心配していたんだよというように目を細めた。“心配”ということに、怜は渚、遙、真琴、樹の顔を見渡し驚きながらも嬉しく思ってしまう。

「あ、これ!凄いなぁ!中学のときの?」

部屋に飾ってある、トロフィーや盾の多さに真琴が驚きの声が上げれば、怜は昔の話であると告げる。それと同じぐらい、もしくはそれ以上に水泳の本があることを、渚が手を広げて告げた。その多さに、遙や樹は驚いてしまう。

「こんなに勉強していたのか!?」
「本当に、すごい量だよ」
「あ、はい。理論は完ぺきに叩きこみましたから」
「だから、レイちゃんそれ言っちゃダメだよー!失敗フラグ、失敗フラグぅ〜!!」
「失敗フラグとはなんですか!?」

怜と渚のやり取りを見て、ずっと気になっていたことを遙は口にする。樹が腹痛ではなかったことや、岩鳶駅へと戻る為に電車を待っていたこと、樹と怜の様子を見ていて思うことはひとつだった。


「怜、凛のとこに行ってたんじゃないのか?樹と一緒に?」

「えっと、ハル…それは、その」

「いいんですよ、樹先輩。行ってきました。ただ、樹先輩は僕のことが心配で、気になって後を着いてきてしまったんです」

「え?じゃあ、樹ちゃんは凛に会いに行った訳じゃないってこと?」


怜は自分ひとりの行動であったことを告げれば、横に座る真琴が樹の顔を覗き、そのまま樹は頷いた。

「うん。部活に向かおうとしたら、怜くんが校門に向かうのを見ちゃって…」

遙は、樹がどことなく心配そうに告げるのを感じて、怜が凛のことを気にしていたのではないかと思ってしまう。


「こないだ、俺が昔の話をしたからか?」
「いえ、僕が個人的に凛さんっていう方に会いたくなっただけです。でも…もう、いいんです!あんな人!もう知りませんっ、僕には関係ありませんから!」


きっぱりと言い切った怜に、遙と真琴は安心する。だが、樹は凛とのやり取りを知っているので少しだけ複雑だった。


「ならいい。今ここに居る、メンバーが俺たちのチームだ!怜っ!!」

「だよね、怜もチームの一員としてしっかりと頼むっ!」

「そうだよ。ひとりでも欠けっちゃたらダメなんだから!レイちゃん!」


遙、真琴、渚から掛かる仲間としての言葉。メドレーリレーの、チームの仲間の絆を感じ取った怜は、口を大きく開けてハイッと告げた。樹は、最高のチームになっていることを確信する。

「怜くん、良かったね!」

「樹も、だからな」

「そうだよ。樹ちゃんも、入っていること忘れちゃダメだからね」

「うん、わかってる!」

樹は遙と真琴からの言葉を聞いて、くすぐったくて温かい気持ちになってしまう。泳げなくても、仲間でいられることに嬉しくもあり、やっぱりリレーじゃなくても皆と泳ぎたいという気持ちが募っていた。

「よし!それじゃー、いったん休憩ー!」

腕を大きく伸ばした渚は、真琴の持っていたコンビニ袋の中身をテーブルの広げた。テーブルの上にあるメロンパンに、怜がなぜメロンパン?っと疑問に思えば果物のメロンは高くて買えなかったんだよと渚が説明する。

「気になったんだけど、メロンパンが5つもあるのは?」
「それは、イツキちゃんの分だよ。帰りにハルちゃんとマコちゃんが、お見舞いとして持ってくつもりだったんだよ」

自分の分もあることに、樹は「食べ過ぎでお腹痛くて、部活休むって連絡したのに?」と思いながらも、改めてその優しさを嬉しく感じるのであった。


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