凛が去ってしまった後、中々出てこない三人を心配して迎いに行けば放心状態の真琴と遙がいた。遙は、少し違った意味での放心状態だったが真琴の様子がいつもとは違っていた。
それもそうかも知れない。同い年で同じスイミングクラブのクラスで、仲が良かった凛が変わっていたら、当たり前だ。メド継、メドレーリレーをした仲間なのだから。


「で、なんで私もここにいる訳?」

「だっーて、ハルちゃんは、早引きしちゃっていないし!それに、人は多いに越したことはないからねっ」


職員室を通りかかったところで、渚と真琴に捕まってしまった。渚が昇降口の下駄箱に凛の名前があるかも知れないから一緒に探して欲しいと言ってきたのだ。
誘って来た張本人なのに、渚は「本当にこの学校にいるのかな」と口にする。


「オーストラリアから戻ったんなら、転校してきてる可能性はある」
「でも、ここに転入してるとは限らないけどなぁ」
「んーそうだよね、始業式じゃ見かけなかったんじゃ」
「それでも、凛の家が引っ越したとは聞いていないから探す価値はあるでしょ」


反対側で探している真琴がいやに懸命な声で返してくる。下駄箱に寄り掛かっていたら、渚が腕を引っ張って休んでいないで探してと促す。
私もハルのように早引きでもすれば良かったと少し後悔した。


「あ――っ!あった、」


昇降口に真琴の声が響く。その声に、松岡凛の名前があったのかと駆け寄れば、それは一字違いのものだった。


「“松岡江(ゴウ)”…どこかで、」


その名前に私と真琴が反応する。


「江って、確か…‥凛の妹で、赤い髪が特徴の女の子」
「あー、あの子、凛の妹の松岡江だ!」
「え!イツキちゃんも知ってるの?」 


知ってるも何も「何回か、スイミングクラブで見学に来ている江と顔を合わせたことがある程度だけど」と告げれば、真琴は、その江を昨日 屋上で見たという。

今更なんだが、親同士が仲が良い遙の家に行くことが多く、神社へと続く石段を挟んだ向かい側に真琴の家があったため必然と仲良くなった。
そんな二人のあとを着いていくようにスイミングクラブに遊びに行っていたら、遙に誘われて私も通っていた。
親としては階段の上り下りを嫌うので、体力を付けさせたかったらしい。だが、人間そう上手くはいかない。水と陸は大きく違った。

凛は小学六年生の頃、スイミングクラブに現れ、また学校にも転校してきて少しだけだったが遙や真琴、そして私と学校生活を過ごした。
渚のことも凛のことも、その妹の江のことも知っているのは、そういう訳だ。


「ずるーい!真琴だけ、見るなんて!」
「なんで?樹ちゃんが、そこで怒るワケ」
「可愛い女の子を一人だけズルイなって」
「あははは、樹ちゃんの可愛い子好きは相変わらずだね」
「なんか、それ昨日会った凛にも言われた。相変わらずとか、変わらないんだなとか」


真琴と二人で喋っていれば、渚に僕も混ぜてよっとダイブをされる。背丈が低くても、何気に体格はしっかりとしているので、尻もちを着いてしまう。
勢い余った行動に、渚はごめんっと頭を下げて謝ってくるので大丈夫っと返した。


「樹ちゃんは、そのままでいいんだよ」


座ったままの私に真琴は手を差し出してくる。差し出された手を取れば、昔と変わらない笑顔で優しく微笑みかけてくれていた。


“変わらないもの”



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