「渚は、ずっと怜くんを追いかけ回してるね」
「ホント、止まって花火すればいいのにね」
「それが楽しいんだろ」

線香花火に火を点ければ、両隣に座る真琴と遙が詰め寄って火を貰おうとする。微妙に触れる二人の服からの体温に、樹の鼓動は線香花火のように揺れた。

「あ、点いたな」

遙が言うように、二人の線香花火にも樹からの火玉から分けて貰うように火が点いた。

「ホントだ。でも、線香花火って儚いよね」
「真琴ってさ、たまにロマンチックだよね」
「樹ちゃん、それって褒めてるの?」

樹と真琴の言葉に、遙はくすっと笑う。それを見て、樹も笑いパチパチと音を立てて辺り照らしていく花火を、ずっとこのまま三人で見続けていきたいと樹は思っていた。その光りの先に、渚や怜、江、そして凛がいれば幸せだと。


「あぁー、笹部コーチ!何ですかぁ、コレ!?」

「何、何?どうしたの?」

「何か、見つけたのか?」

江の言葉に渚と真琴が、反応する。先ほどの雑誌の件で、天方先生が東京でグラビアの仕事をしていて、尚且つ自分の好きな人だったことに笹部コーチは動揺をしていた。だが、天方先生から強制的に話を終了されてしまう。そんな二人の横を、江が何かを発見して、縁側にいるみんなへと見せようと駆け寄った。

「ちょっと、松岡さん!?」

笹部コーチと天方先生は慌てるが、江の手にしていたものは「スイミングクラブのアルバム」だった。

「おぉぉ、懐かしい!江ちゃんも、写ってる!」

1ページに、写真が2枚。それが何ページもある。その思い出の内容に、渚と樹が目を輝かせた。

「ホントだ!笹部コーチって意外とマメなんですね!」
「樹、意外とっていうな。俺はこう見えてもマメなんだよ」

凛の腕にしがみつく江の姿が、バッチリと写っている写真もある。昔から変わらず、江はお兄ちゃん子の可愛い女の子なのだ。

「クラブの裏で、バーベキューをやったときのだぁー!」

その下にあるのは、みんなでお肉を頬張るバーベキューをしたときに撮った写真。

「えぇ、私それ知らない」
「リンちゃんが転校してくる前だね」
「私、覚えてるよ。確か…鯖がなくて、ハルが少し機嫌悪かったんだよね」
「それで、遙先輩が笑ってないんですか?」

それで笑っていない訳ではないが、遙が笑わないのはいつものことなので何とも言えない。

「写真に写る時ぐらいは、笑えよなぁ」

「ハルちゃんは、いつも心で笑ってるんだよね」

次の写真は、小5のときの大会のものだ。遙と樹が、両端に座り一等賞の賞状を掲げている。

「このときも、ハルちゃん優勝したんだよね。それに、イツキちゃんもバックで優勝したんだよね」

「樹先輩って、速かったんですね」

樹の泳ぎを見たことがない怜は、関心の目で口を開く。

「そうそう、樹ちゃん速く泳げるのに上を見ていたいから途中で止まることがあってよく怒られていたんだよね」

「あぁ、それで大会できちんと泳がないと今後の練習はバック禁止って言われていたんだよな」

「ちょっと!真琴もハルも、そんな昔話はいいから!」

話題を逸らさせるために、何かないかと樹が考えれば写真に写る赤髪の男の子に気付く。

「これって、端に写ってるの凛だよね?」

「ホント、お兄ちゃん…」

「このときはまだ、凛とは知りあってはなかった」

「すごぉーい!僕たち出会う前に、出会ってたんだ!」

凛を知るまで、そうそう時間は掛からなかった。天方先生は、凛との関係に運命の赤い糸と言ったが、それに近いものではあると樹は思っていた。ただ、一瞬顔を歪ませた怜を樹は見逃さなかった。

「お、この辺からは凛も写ってるなぁ!」
「転校してきた頃だ!」
「この日は、大雪で雪だるま作ったやつだぁー!」

雪だるまを作ったのは渚だけで、遙と真琴、樹はイルカを凛はそれに対抗して鮫を作った写真だった。少しずつ増えていく凛が写る写真に、江や渚は声を上げて笑った。

「ごめん。怜くんには、つまらないよね」

少し離れた場所で、アルバムを見つめるみんなを見守っている怜に樹は声を掛けた。

「いえ!そんなことはありませんよ」

怜は、眼鏡をフレームを直してアルバムを見るために近寄った。

「あの…前から思っていたんですが、この端にいる女の子は?」

遙の視線の先にいる、端に写る女の子を怜が指差した。

「それ、私だよ」

その声は今し方、自分がいた位置から喋る樹の声だった。怜が質問した女の子は樹のことだった。四人の輪にいるようないないような、そんな距離感につい怜は気になっていたのだ。

「メドレー選手じゃないから、いいって言ったんだけどね。…凛や渚、しまいには真琴までもが一緒に入ればいいじゃんって。…でも、なんか恥ずかしくて横向いちゃったんだよね」

「そうだったんですね」

その下には、首からぶら下げたメダルを凛と樹が掲げて笑う二人の写真があった。その写真に気付いて、また少しだけ複雑そうな顔をする怜だった。


“語る、思い出”


江は天方先生の車に乗って、笹部コーチの家を後にした。遙や樹たち五人は海沿いの通りを歩いている。食べた物を消化するにはちょうどいいっと言って、樹も歩くことを決めたのだ。

「楽しかったぁー!また、行きたいね」
「花火も出来たし、スイカも食べれたしね」

先頭を歩く渚と樹は、口にすれば真琴がそれに返す。

「鍋は熱かったけどね」
「でも美味しかったよね、イツキちゃん」
「美味しかったよ。あ!怜くんはどうだった?」

先ほどから、話の輪に入らず静かな怜に樹は話を振るが返事が返っては来ない。真琴も気になり、怜へと声を掛ければ怜は立ち止っていた。

「怜くん…?」

「どうした、怜」

樹と真琴が立ち止まれば、渚と遙も足を止め怜へと体を向けた。


「……一体、なにがあったんですか?皆さんの間に」
「皆さんって、リンちゃんのこと?」


写真に写る凛や、一緒に写るみんなはいつも笑顔で楽しそうだったことに怜は戸惑いながら口にした。

「怜、今さらこんな話をしても意味なんか無いかも知れない。でも、お前が知りたいなら全部話す。俺たちのこと」

「聞かせてください!僕だけ蚊帳の外は、真っ平だ!」

遙の言葉に、自分の気持ちを伝えた怜に樹と真琴は怜の名前を口にした。

「僕だって、仲間なんですから!」

「レイちゃん!」

目を細めて、遙は小さく頷いた。“わかった”っと。


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