「お邪魔しまぁーーーす!!!!」


表札に書かれているのは“笹部”の文字。今日は、笹部コーチが言っていたように決起集会みたいなものをするために、笹部宅に水泳部全員と天方先生でお呼ばれした。庭には、水を張ったバケツにスイカ1玉が入っている。


「おぉー、よく来たなぁー!」


通された畳の居間には、テーブルの上には 真っ赤なお出汁の中に蟹が顔を出している鍋が、音を立てて煮たっていた。鍋の熱気と季節の暑さで、すでに汗を掻きはじめてしまう。


「なぜ、この真夏に鍋を…」

「そりゃあ、水泳選手のスポーツ栄養学検知からに決まってんだろう。俺特製のたんぱく質ミネラルたっぷりの 笹部鍋だ!!」

「鍋するならせめて、エアコンを」


ヘバッている渚は、扇風機1台じゃなくてエアコンがいいと言うように口にすれば、そんなものはねえよっと言われてしまう。

「暑くて、バテそう……」
「樹、しっかりしろ」

手で仰いでも、風はあまり感じられない。遙は、江から飲み物を貰い樹へと手渡した。

「やっぱり、止めにしませんか」
「なぁーに言ってんだ。絶対に美味いから、さっ食え!!」

笹部コーチは鍋の具材を取り皿に装って、そのまま自分の向かい側に座る怜に渡した。その鍋は意外にも美味しく、天方先生や江からも驚きの声が上がる。

「はい、樹ちゃん」

「あ、ありがとう」

自分で取ろうと思えば、目の前にあった取り皿を真琴が手にし樹の食べる分を装って渡せば、隣に座る遙から「コレも食え」と言って箸が伸びてきた。

「ちょっと、そんなに一杯は食べきれないから!」

「樹ちゃん、これも好きだったよね」

遙が入れれば、真琴もさらに入れようとして盛り上がっていく取り皿に、声を上げれば「樹先輩はもっと食べてもいいぐらいですよ」と向かいに座る江から声が掛かった。頬を膨らませながら、箸で摘まめば口の中にトマト味が広がる。

「あ、美味しい」

自然と出た樹の言葉に、隣に座る遙と真琴から笑み零れた。


「そういえば、笹部さんってウチの水泳部のOBなんですよね」

「あ、はい。しかも、最後の水泳部員。後輩が入ってこないまま、俺が卒業したあと潰れちまったんだよなぁ」

「その水泳部を僕たちが復活させたんだから、最初からコーチしてくれても良かったのに」

「だーからぁ、ピザ屋のバイトが忙しかったんだよ。……ほら、コレ中にご飯が入ってんだよ」


渚の言葉に、笹部コーチはご飯が詰ったイカをすすめ 取り皿を前に出して、渚は入れてと口にする。だが、器には入らず鍋の中に落ちて汁が飛び跳ねてしまう。あまりの熱さに、渚が後ろにあった机にぶつかってしまった。そのまま机にあった雑誌類が、雪崩のように崩れていく。

「スマン!大丈夫かっ!」

「あらら、大変!」

散らばった雑誌のひとつを手にし、渚と遙が口にする。

「何、これ?」
「何年も前の、バックナンバー?」
「私、手伝うよ!」

畳の上の青年雑誌を片すために立とうとすれば笹部コーチに、俺がやるからいいと言われてしまう。一瞬だけ、雑誌に目がいけば表紙の女性がどこかで見たことがある人のような気がした。
片付けをしていた笹部コーチと、天方先生は声を震わせ、仕舞いには天方先生が何かを隠すように「蟹が燃えてます!蟹ー!!」と叫ぶように話題を逸らさせた。



“その想いを伝える”



笹部コーチと天方先生は、スイカを切り分けるために台所へと移動していた。渚は花火を手にし、怜を追いかけている。縁側に遙、樹、真琴も座り、花火をやろうとしていた。


「あれ、…火がないね。俺、訊いて来るよ」


手の中には花火があるが、それを点ける火が無かった。渚たちが、先に始めたので持っているだろうと真琴は口にする。

「あ!真琴、待って。ほら、ハル!たまには動かないと」

「あー、わかったから。そう押すな」

たまには、真琴じゃなく遙も動かないと言って樹は遙の背中を押した。


「花火ひさしぶりだね。よく三人でやったけど。真琴の家の庭でも、蘭ちゃん、蓮くんを交えてやったよね」

「そうだったね、蘭も蓮も樹ちゃんによく懐いていて困らしてたっけ?」

「うん、二人がよく帰らないでって言いながら泣いちゃって。一層のことお姉ちゃんも、一緒に暮らそうって言われたこともあったよ。私も、ひとりっ子だから嬉しいんだけどね」

「……樹ちゃんが、お姉ちゃんになってくれていいんだよ」

その意図に、すぐには理解できず真琴を樹は見返す。真琴の目は揺らぐことなく、樹を映していた。トクントクンっと、煩くなっていく鼓動の音と―――夏の虫の鳴く声が、耳に届く。


「……真琴っ?」

「好きだよ」


耳元で囁かれ、そのまま肩を掴まれ顔を引き寄せられる。目をギュッと瞑れば、額に真琴の唇がそっと触れた。


「ごめん。困らせたくないって…前に言ってるのに、また困らせてるよね」


この気持ちを伝えられないことに、顔を横を振る。同じことの繰り返しに、申し訳ないことと、もどかしさを感じる。


「俺、本気だから樹のこと。……凛にも、ハルにも負けたくないから」

「あの!真琴、私…、その……」
大切な人。それは変わらない。真琴もハルも大切な幼馴染みで、凛も大切な仲間。だけど“答え”はまだ―――

「いいんだ、ゆっくりで」


頭をポンっと撫でられれば、後ろから声が掛けられる。振り返れば、遙と視線が重なり合ってしまう。いつかは、答えを出さないといけない。


「――樹、真琴、貰って来たぞ。火」

「ハル、ありがと。樹ちゃん、やろっか?」

「…うんっ」




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