「じゃあ、ここで解散!あとは自由行動だ。ただし、くれぐれも問題は起こすなよ」
必勝祈願を終えた鮫柄水泳部。御子柴部長の号令に、部員は返事をし解散となる。似鳥は、先行く凛に「何か見に行きましょうよ」と言うが、凛は構わず歩きだしてしまった――
「イカバーガーだって!」
「こっちのイカフライ&チップスも気になります」
屋台の前で、真剣に悩む渚と怜。あとから来る真琴、樹、遙へと、渚は手を振り迷子にならないでねっと告げた。
「………ぁ!」
「何、レイちゃん?」
渚は、いきなり怜に腕を掴まれたので、そのことを口にするが怜は何も言わない。
怜の顔を向ける方へと渚も体を向ければ、反対側を歩く凛と似鳥の姿を発見してしまうのだ。
「リンちゃん!?」
二人はそれから中屈みになって、団扇を使い小声でまずいんじゃないかと話し込んでしまう。
「ねえ、二人とも何かあったの?」
「「うわぁああ!!!!」」
樹は、回り込んで渚と怜の顔を窺うように告げれば、二人は肩を上げるように驚いてしまう。
「どうかした?」
「ん!、あっ イカ 何杯食べれるのかレイちゃんと話し込んでいたんだ」
「そんなに食べるのか?」
渚の焦り具合に、樹や真琴が気になってしまう。また、遙が口にしたあとに、渚は両手をあげて隠す行動をするが樹はそれに気付いてしまう。
聞き覚えのある声が、射的やりましょうよと言っていて「やらねえ」と告げる凛の姿が視界に入った。
「そうだ!僕、みんなの分も買って来るよ」
「気 が 効 き ま す ね!渚 く ん っ」
「あっ、ちょっと!…あっちの休憩所で待ってて」
「いやぁ、別に食べたくないんだけど」
「いや、僕たちは食べたいし」
明らかに様子が可笑しくなる渚と怜に、樹はその意図を感じとる。必死にウインクをして、渚は真琴へとアイコンタクトを送ろうとした。
「真琴もハルも、休憩所行こう?」
「イツキちゃん!」
「分かった。ほら、ハルも。渚たちの席取っておこうよ」
樹は、渚へとウインクするように目を送れば真琴も何かに気付き、遙に行こうと告げた。
三人が、休憩所に向かったのを見て渚と怜はしゃがみ込み、改めてどうしようかと口にする。凛と遙が、鉢合わせしてしまうかも知れないと。
「ハルちゃんが気分転換出来るようにって思ってお祭り誘ったのに」
「逆効果になるかも知れませんね」
このままでは、遙の地方大会出場が危ぶまれるかも知れないと考えた渚は、怜に「リンちゃんを、尾行してッ!!」と告げるのだった。
二人を合わせないために、怜が尾行をして逐一、連絡をしてくれればいいと。
「はぁぁぁ?」
「それで、リンちゃんがどこにいるか報告して。そしたら、僕らが違うところにハルちゃんを誘導するから」
「渚くん…。君、楽しんでませんか?」
夜空に向かって、渚が指差し「さあ、行けレイちゃん刑事(デカ)!!」と声を上げた。そんなことをし始めたとは知らず、遙と真琴、樹は休憩所の席を確保するために足を向けていた。
「すぐに決めてよかったのか?」
「そうだよ、渚が買ってくるのを待って行けばよかったのに」
「だって、りんご飴を今 食べたかったんだよ」
遙と真琴が、樹の手に持つりんご飴を見て告げる。樹が我慢しきれず、りんご飴を買ってしまったのだ。
「りんご飴って、この周りが美味しいんだよね」
一口、二口齧ったりんご飴を掲げれば、視界に遙と真琴の顔が同時に映る。
「甘いなっ」
「ホントだ」
告げられた言葉と共に、視界に入ったりんご飴の両端が欠けていることに気付く。同時に食べられてしまったことに樹が驚けば、二人からくっと笑う声が漏れた。
「ちょ、っと!笑うとこじゃないでしょ。二人とも食べたいなら自分で買えばいいのに…。飴の部分、減っちゃったじゃん!」
「樹のが、食べたくなった」
「樹ちゃんのが、美味そうに見えたから。ついね」
休憩所の椅子に座りながら「なら、買えばいいのに」と樹が呟けば、渚がこちらに向かってくる声が聞こえてくる。
「随分、色々買ったね」
「ホント、この量は多くない?」
「あれ?怜は」
目の前にあるのは、イカバーガー、フランクフルト、焼きそば、とうもろこし、イカ焼き、りんご飴、食べ物の多さに真琴と樹が若干引いてしまう。怜がいないことに真琴が気付けば、渚は知り合いと会ったからちょっと回ってくるって、と口にした。
「……あっ、」
樹は目の前の食べ物の中に、りんご飴があることに少し後悔をしていた。遙と真琴の言う通りだったなと。割とりんご飴一個で、お腹いっぱいになっていたからだ。
「無理して、食わなくてもいいと思う。どうせ、渚や真琴が食うだろうし」
「ハル?」
「…飲み物買ってくる」
食べ物だけしかないことで、遙が席を立とうとすれば渚が自分が行くと告げた。
「あぁ、ハルちゃんはここに居て。僕が行くから」
「じゃあ、俺が一緒に行くよ。渚ひとりじゃ持てないかも知れないし。樹ちゃんは、何飲む?」
「んー。口が甘いので、緑茶が良い!」
飲み物の買って来ると言った渚を手伝うと言って、真琴も席を外した。
「で、何かあった?」
「実は、リンちゃんがお祭りに来てて……」
「え、凛が?」
遙に合わせないようにと、渚と怜が動いていたことを知るのと同時に、靄が掛かってしまう。嫌な予感とでも言うんだろうか。もしかしたら、樹に何かあるんじゃないかと真琴は思ってしまったのだ。
「やっぱ、ここは焼きとうもろこしでお口直しといこうかな?」
「樹、携帯光ってる」
「あ、ホントだ。誰だろ?」
テーブルの上の食べ物に隠れている、樹の携帯が点滅をしていることに遙が気がついた。
メールの受信マーク。メール画面を開けば、目に飛び込んできたのは「話がある。小学校の桜の木で待ってる。お前が来るまで」の凛からの連絡だった。凛とは大会の日以来、あのままだ。だから、樹は戸惑ってしまう。だが“来るまで”とあるのだから、行くしかない。
「……ごめん、用が出来たから少し席外すね」
「樹?」
「何かあったら、連絡するから」
「…わかった」
樹の先ほどまでと違う表情に、行くなと言えない自分に、遙はどうしようもない感情を感じていた。それは泳ぐ理由が、分からないままの状態で言える訳がないと。伝えられていない気持ちを。
“感情が交差する”
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