プログラム通りに終われば、大会一日目が閉会される。
すっかりと、空は茜色へと変わっていた。力を出し切った各学校の生徒が、それぞれの気持ちを抱えて会場を後にする。ここにも、肩を落として悔しさを感じているものがいた。



「すみません。完全に、僕の力不足でした」

「そんなことないわよ。自己記録を更新したし、大したものだわ」

スタート台からの飛び込み時に、怜のゴールは下へとずれてしまったのだ。その状況下で怜は、頑張ったと思う。

「怜は、初めての試合だったんだからよくやったよ!」
「イツキちゃんの言う通りだよ!ゴーグルさえ、ずれてなきゃ入賞できたかも」
「いえ、さすがにそこまでは」
「まぁ、いずれにせよ、みんな良く頑張ったわ!ほんと、お疲れさまっ」

天方先生の言葉に、渚がやり切ったって感じだよね、と真琴と怜に告げる。真琴も、別の大会を目指して頑張ろうと言った。


「あらっ。そういえば、七瀬くんは?」


この場にひとり居ないことに気付き、天方先生は遙のことを口にすれば戸惑いながら、渚が先に帰っちゃったことを告げた。気付いたときには、ゲート前に遙の姿は無く荷物も消えていたのだ。


「えぇ!?そうなの…‥」

「部長の真琴がね、判断したんだよ。ハルの具合が良くなかったみたいで」


江の言葉に、樹が辻褄を合せるように真琴へと目を送った。

「あ、うん。なんか、気分悪いって言って」

「そう、それなら仕方ないわね。朝日奈さん、松岡さん、あとは」


天方先生はそれを樹と江に伝えれば、ピンク色のミニカーへと乗り込んでいった。笹部コーチもお疲れと告げて、ピザ屋のバイクで去っていった。


「終わっちゃったね」

「あぁ、」

「でもやっぱり、僕たちも地方大会行きたかったです」


夕焼けに照らされて、駐車場に五人の影が伸びていく。大会が終わってしまったことに渚、真琴、怜はどこか寂しそうだった。


「あれだけ、頑張って練習してきたんだから誰か一人ぐらいは行けるかもって思ったけど現実は厳しかったか」
「水泳は奥が深いです。やはり理論だけでは勝てない、燃えてきました!」
「まぁ、今さら燃えても、しょうがないけどね」
「渚!しょうがなくないよ。次に向けて、また 頑張ればいいんだから」
「そっか!じゃあ、次の大会はイツキちゃんもだね」


次の目標に向かえばいいことを伝えれば、渚にニコッと笑顔で言われてしまう。そうだね、と樹は渚へと答えた。

「あの、みなさん…まだ明日があります」

ずっと黙っていた江が口を開いたことに、一斉に顔を向けた。

「大会、二日目!」
「だって、僕たちのエントリー種目は今日で全部終わっちゃったんだよ」
「…嘘っ!? 江、二日目って出しちゃったの……」
「はい、樹先輩にも相談したアレです」

エントリー表を提出する際に、江に言われたことを樹は思い出す。

「二日目は確か、個人メドレーとあとはリレー、…あっ、あ!江ちゃん、まさか!?」

大会二日目のプログラムは真琴が言うように、個人メドレーの個人競技とメドレーリレーの団体競技だ。


「ごめんなさい!皆さんに内緒で、メドレーリレーにエントリーしてました」

「「「えぇぇぇええ!?」」」


江は三人の前に出て、手を合わせながら頭を下げた。
エントリー表を出す際に、一度相談されたリレー競技。樹自身も出すとは思っていなかったようで、少し驚いたが江らしいと思っていた。
江は、天方先生には伝えてはいたが、言いだすことが出来なかったようだ。


「それじゃ、もし リレーに勝てば」
「地方大会に出られます!」
「無茶だよ。急にそんなことを言われても、俺たちリレーの練習もしてこなかったし」
「どうして、もっと早く言ってくれなかったの」


リレーとなれば、個人種目と違って引継ぎの技術が必要となる。江の言葉に、急過ぎると言った真琴のことも、早く言って欲しかったと言う渚のことも分かる。


「江も悩んだよね。私がハルが乗り気じゃないから、出しても出場しないかも知れないって言ったから、言いだせなかったんだよ」

「樹先輩……」

「やりましょう!」


ギュッと握りこぶしを作って、怜は告げた。これは自分たちに与えられた、最後のチャンスだと。


「たとえ 練習してなくても、やってみる価値はある!」


怜の力強い意志に、真琴も渚もお互いの目を見合わせて「うんっ!」と頷くのだった。



“まだチャンスはある”



早く、このことを伝えるために、樹たち全員は遙の家へと足を向けた。


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