「いいなあー。50mプール」

思い出すのは先ほどの見た光景。野外炊飯場のある目の前の砂浜で、2つのテントを組み立てながら渚が呟く。

「やっぱり、強豪校ともなれば違うのねえ」
「それをあまちゃん先生が言っては、ダメですよ。新設したばかりの部でも、先生が部費を勝ち取れば」
「樹さん、それを言わないで!!」

先生の率先力やら期待度のアピールの仕方によって部費も変わることを樹が告げようとすれば、天方先生に弱々しい声で返される。
とにかく鮫柄水泳部を羨ましいと渚がいい、怜が呟く。

「格差を感じますね」
「関係ない」
「ハルの言う通り、今回の俺達の合宿目的はあくまで持久力をつけること」
「そうだよ!遠泳は長い距離を長い時間泳げて、持久力が鍛えられるからね!!」

テントの釘を打ち込んでいた樹が、顔を上げ怜と渚に告げれば、僕たちには無人島がある!と立ち上がり渚が口にする。

「50mプールと無人島は同列なんですか!」
「似たようなもんじゃない?」
「どこがですか!」

渚と怜のやり取りに、笑みが零れれば天方先生が「さてと」と口にする。

「それじゃあ、私達はいったん宿にチェックインしましょうか」
「はい!樹先輩も、行きますよー!」
「あ、うん」

思い掛けない言葉に怜と渚、真琴が声を揃えて告げる。


「宿ぉ !?」
「それはどういう…」


天方先生は、それはどういう意味と告げた怜を含め男子 四人に、浜から見える民宿を取ってあることを説明する。さすがに、女の子に野宿は…っということだ。
チェックインを済ませ、部屋に荷物を置き、遙たちの場所へと戻れば四人とも競泳水着に着替え終わっていた。

「あ、ねえねえ、イツキちゃんも泳ぐよね!学校だと、マネージャーだからって泳がないんだもん。僕、久し振りにイツキちゃんの泳ぎみたいなぁ」

江は着替えに、天方先生は紫外線の対策に時間が掛かっているので樹だけが先に戻ったが、渚に駆け寄られ言われてしまう。


「これも部活の一環なんだけどな。それにごめん、泳げないんだ…」
「え、イツキちゃん?」
「…えっと、泳ぎたくても、水着を忘れちゃったんだよ」
「あぁ、そうなんだ。残念…」


泳げないと言った瞬間、渚の表情が一瞬 曇った気がして水着を忘れたと付け足した。楽しい合宿中に、困らせてはいけない。それに、水着を忘れてしまったことも事実だ。

「ほら、渚!真琴が、特訓の説明するんじゃないの?」
「うん!じゃあ、行ってくるね」

渚は手を掲げ、浜辺に立つ遙たちのもとへと戻っていった。三人の前に真琴が立てば、強化合宿と書かれている冊子を開いて特訓内容の説明を始める。


「地図を見ても分かる通り、この島の周りにはいくつか小さな島がある」

「無人島だね!」

「だから!渚くんは、なんでそんなに無人島好きなんですか」

「あそこに見える好島、大島、水島の間を泳ぐのが今回の合宿の特訓だ」


それぞれの島の間の距離は約1km。合計すると1セット4kmの遠泳と1kmのランニングになる。初日はそれを3セット泳ぐのを目標にしたいと告げる。
結構なメニューに、怜は初心者であるから別メニューを用意してあると真琴は言うが、怜は同じで大丈夫だと口にする。
理論が完璧でも、海は危険であると告げた真琴は、同じメニューをやるならビート板を使って行なうようにと告げた。

「それじゃあ、」
「特訓開始ぃ――――!!」

真琴の言葉に、渚が被せるように声を上げて一番乗りで海へと走り出した。島と島とを泳いで浜辺に上がればランニングをし、再び島へ向かって泳ぐ。
初心者の怜を気にしつつ、セットメニューを繰り返さば、あっという間に夕暮れの空へと変わっていた。

「こんなにも…遠泳がっ、きついものだとは…」

「初めてにしては、上出来だよ。よく頑張ったな」

息が上がり、肩で呼吸をする怜に真琴は声を掛ける。泳ぎ終わった渚は腕を高く掲げ、特訓って感じだねと口にした。

「この合宿が終わればきっと、めちゃくちゃ強くなってるよ!県大会で勝って、次に地方大会で記録を出せば、その先は全国大会!」

夢みたいな話だけどいけるとこまで行きたいと告げた真琴と、実績を残せば部費が増えて冬はジムのプール泳ぎ放題と告げる渚。

「だと、いいな」

遙も渚の言葉に言葉を返すが、怜だけは何も言えなかった。自分の力量を痛感してしまっていた。


「お疲れさまでした!やっぱり、地獄の特訓メニューはきつかったですか?予定の半分くらいしかこなせてない――」
「まあ、初日はこんなもんだよ」
「あ、明日はもっとがんばります!」


真琴と江の会話に、怜が告げれば 渚が大丈夫だよと口にする。


「怜くんは初心者なんだし、そんなに無理しなくてもいいんじゃ?」
「いえ、樹先輩!このぐらいは大丈夫です」


怜の言葉に、その意気だと真琴が返せば 野外炊飯場に座っている天方先生から、反省会はそれぐらいにして食事にしましょうと声が掛かった。
樹は 自分が泳げない状況でいるからこそ、怜のことが気になっていた。



“その感情にもがく”




[top]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -