ピザの注文と同時に笹部コーチに宅配をお願いし、本題を話せば ピザ1枚で頼むかっと言われたが、渋々承諾をしてくれた。
合宿までは付き合わないが、行きと帰りの送り迎えはイカ釣り漁船で引き受けてくれると。


「じゃあねーーー!!!!」

「また明日!」

「渚はともかく、江は気をつけて帰るんだよ」

「ちょっと、イツキちゃん!!なんで、僕はともかくなの!?」

行く手筈も決まって、渚と江の足取りは軽く合宿のことを考えると楽しいそうな顔をしていた。岩鳶駅まで遙たちと一緒に三人を見送る。
渚と怜が同じ電車で、江が違う電車。江が一人だけ違う電車だからこそ、樹は笑いながら気をつけてねと言っていたのだ。
発車ベルと共に電車の扉が閉まる。振っていた手を下げて、真琴が帰ろうかと口にした。


「なんとかなりそうだし、あとは、あまちゃん先生の許可を貰うだけだね」
「あぁ、」
「皆で合宿かぁ、楽しみだな。あ、怜は初心者だから俺たちがちゃんとフォローしてやらないと」

真琴を真ん中に漁港の通りを横並びで歩いていた。空は夕暮れへと変化していた。真琴の言葉に遙は「ああ」と言い返すが、樹は黙っていた。
遠泳に自分も自信はないけどっと言って真琴は怜のことを心配する。他の人ばかり心配するところは、真琴の良いところでもあり悪いところでもある。


「…真琴は、いいの?」

「俺も思っていた。お前は本当に大丈夫なのか…“海”」


急に足を止めた樹が、口を開けば同じように遙も足を止める。二人の足が止まったことに真琴は振り返り、“海”という言葉に部活のときと同じように、表情を曇らせた。

「大丈夫だよ、もう昔の話だし……それに、」

それは、幼馴染みである三人が共有している昔の記憶。子供の自分たちには辛く、脳裏に焼き付いたことだった。真琴は、大丈夫だよと告げたあとに樹の顔を見たが、言うのを止めてしまう。
真琴は樹の顔を見て、樹ちゃんこそ大丈夫なの?と言おうと思ったが言葉を飲み込んだのだ。
何も言わないことに疑問に思う遙だったが、強張らせていた肩を下ろして、止めていた足を動かせた。だが、樹は顔を俯き足を止めたままであった。

「…二人とも今日は、このまま帰るね」

俯いていた顔を上げて、樹は遙と真琴に告げれば二人とも驚いた顔をする。

「え、樹ちゃん?」
「合宿が行けることになったら、色々と準備しないとまずいでしょ?だからっ!」
「飯、大丈夫か?」
「平気だって!レトルトを温めるぐらいは出来る」

二人にじゃあねと告げて、樹は背中を向けた。樹は真琴にいいの?と告げたが、自分自身にも言った言葉でもあった。少しだけ一人での時間が欲しかった―――




「ハル、真琴!おはよう」

「あぁ 樹、おはよう」

「おはよう、樹ちゃん」


今日は神社へと続く石段での待ち合わせでもなく、遙の家でもなく、漁港前で樹は遙と真琴と待ち合わせをした。
毎回、待ち合わせをしている訳でもないが、今日はいつもと事情が違う。合宿当日だ。三人で漁船乗り場へと向かえば、一隻の前で渚が大きく手を振ってこっちであることを伝える。

「おはよう、皆!」

先に来ていた怜、渚、江と挨拶を交わせば、笹部コーチからこれで全員か?と訊かれるが顧問の天方先生がまだ到着していなかった。
ピンク色の小型車のミニが横切ったと思えば、颯爽とした出で立ちの天方先生が現れる。つばの広い帽子とロングワンピースで紫外線対策というところなんだが、なぜかキラキラと輝いて見えた。

「すみません!お待たせしました。笹部さんですよね、この度はお世話になります。あのぉ〜、これ つまらないものですが」

「はぁ…、どうも」

天方先生から何かを受け取ったあとに、笹部コーチはその顔を見つめる。どこかでお会いしたことがと告げれば天方先生の顔色は青ざめて、そんなことはないと口にし視線を逸らした。
合宿の成功祈願として大漁旗を掲げ、船は目的地となる島へと出航した。船の上でも渚と江は楽しそうにはしゃいで、先端部分に立とうする渚を必死に怜が止めていた。


「うわーぁ!!いいところ」

「来てよかったわぁー」


白い砂浜と澄んだ青い海。合宿場所は予想以上の場所で、江と天方先生が喜びの声を上げた。

「大丈夫か、怜?」
「怜くん、大丈夫?」
「…大丈夫、ぅ…、お手洗いにいって……」

船に慣れていない怜は、船酔いで気分を悪くしてしまう。真琴と樹が背中を擦っていたが、怜は口元をハンカチで押さえて走り出してしまう。
笹部コーチは差し入れとなるクーラーボックスを渡し、また帰る頃に迎えに来ると告げて去っていった。天方先生は、キャンプ場がないか探してくると告げる。
それぞれが荷物をまとめ、動けるようにすれば、江は受け取ったクーラーボックスの中身を見て驚いていた。何枚ものピザが入っていたのだ。

「そういえば、ハルもクーラーボックス持って来ていたよね?」
「ああ、鯖だ」
「え、こういうときは肉じゃないの!?」
「いいだろ、好きなんだから。そんなに言うなら食わなくても」
「あ、ハル!食わないとは言ってないからね」

樹が、遙に告げれば食うか食わないかまでの話になりそうになったところへ、吐き気が治まった怜が戻ってくる。

「皆さん!ちょっと来てください」

怜のあとをついて行けば、50mプールがある屋内スポーツ施設だった。
上の窓から覗けば、見覚えのある人たちがいる。そして御子柴部長の声が耳に届く。

「なんで、ここに鮫柄水泳部が…」
「あっ!リンちゃんもいる」
「ホントだ、凛も しっかり頑張ってるんだね」
「ひょっとして、また江ちゃんが?」

真琴の問い掛けに、江は手を広げ今回は知りませんからと告げる。その言葉に渚が再度、本当に?と訊いた。

「だって私から何を言っても無駄だって分かったし、それに――」

江は、兄の凛と遙が駐車場裏での話を思い出し、言うのを止める。自分がしなくても、遙先輩がいるから大丈夫だと思ったからだ。
会いに行こうと口にする渚に、遙は止せと告げる。凛とは県大会で会うと約束をしたと。
そのことに 真琴は驚きながらも喜び、遙の言葉に樹は、遙と凛の会話を思い出し 顔がほころびそうになるのを抑えていた。



“再確認する”




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