あの後、天方先生に夏合宿が出来ないかを訊きにいったが、それに回す部費は無いと撥ねのけられてしまう。
顧問のあまちゃん先生がお金をだしてくれるとか?と渚が言って粘ってみたものの、そんな都合のいい話は無いと言われてしまう。
イギリスの劇作家、バーナード・ショーの名言「もっとも影響を受けた本は何か、それは“預金通帳”だ」と告げられてしまい、何も反論が出来なかったのだ。


「よっ!と……」

「樹ちゃん、そこ危ないよ?」

先ほどコンビニで買った2本入りのチョココーヒー味のアイスを手にし、樹は車道と歩車道の境界ブロックに足を乗っけた。
段差のある部分に片足ずつ乗せて、バランスを取りながら歩けば、真琴から心配される。

「大丈夫だって」

袋の中からチューブアイスの一つを銜えて告げれば、真琴はひとつ溜め息を吐きながら先ほど買った 棒が2つ付いたソーダアイスを半分にし、遙へと渡し、その半分を口にする。
銜えたチューブアイスは暑さで、溶けやすくなっていた。口の中への吸い込めば、一気に溶けだし喉を通りぬける。とにかく甘い。パッケージにはチョココーヒー味とあるがチョコの味しかしないぐらいだ。
想像以上の甘さに、視界に入ってしまったせいか、ソーダ味の爽やかさが欲しくなってしまう。

「あーやっぱり、私もソーダ味にすれば良かったかも。真琴!チョコと交換しない?」
「えぇぇ!?…俺、少し食べちゃってるよ?」

樹は構わないと口にする。樹の発言に真琴は食べかけであるからこそ戸惑っているのだが、樹はその戸惑う理由に気付いてはいなかった。

「いいよいいよ。私も半分食べちゃってるし、チョコ好きでしょ!これと、交換っこしよ」

「……樹、待った」

袋に入ったチューブアイスを差し出し、まだ良いとは言っていない真琴から一口かじったソーダアイスを貰おうと手を伸ばす。だが、遙から声が掛かり樹の手が止まる。

「ん、何?ハルもこのアイス食べたい?」
「違う、止めとけ。チョコ味を食べたあとだとソーダ味がしないと思う。それに口の中がおかしくなる」
「え!?それは、困る!真琴、残念だけど交換は無しで」

樹は差し出していたチューブアイスの上部分を指で引っ張って2本目を口にする。交換をすることを樹が諦めたことを確認して、遙は田んぼへと顔を向けた。
二人には気付かれないように、そっと溜め息を漏らすために。真琴自身も、ゆっくりと小さく息を吐いていた。
そして前を歩く怜、渚、江の背中へと目をやった。三人は先ほどから、合宿が断れたことに落ち込んでいた。渚は部費がダメなら、自分たちのお金で行けないかと口にする。

「そんな余裕はありません。自腹で揃いのジャージも作ったし非ブーメラン型水着も買ったし」

田んぼへと向けていた顔を正面へと戻し、遙も怜の言葉に続くように告げる。

「俺も買った」
「僕も、僕も!」
「怜くんはともかく、全員が新しい水着を買う必要無かったでしょ。とくに遙先輩!持っているの全部似たようなのだし」
「うっ、…絞め付けが微妙に違う」
「しょうがないよ、買っちゃったしね」

江と遙の会話に時すでに遅いと、樹が口にすれば、全員でバイトでもする?と渚が告げるがそれも遅い行動だ。計画倒れに、前を歩く三人が肩を落とし項垂れる。

「真琴…?」

急に立ち止まった真琴に声を掛ければ、真琴はニコリと笑う。そのまま前の三人に向かって言葉を投げた。


「いや、俺がなんとかする。お金を掛けずに行く方法、考えてみるよ」


その言葉に渚と江が、目を輝かせる。良い案があると言った真琴を先頭に、真琴の家へと向かった。
真琴は“あるものを取ってくる”と告げて自宅に戻り、遙たちは玄関前で待っていた。家の中から聞こえてくる双子のキャンプといった声に、先ほどとは一変して江は不安になってしまう。

「なんとかするって野宿?それに島までの船代はどうするの…」

「やっぱりヒッチハイクかな」

「海の上じゃ車もトラックも走っていないでしょう」

「あれ、樹先輩?何を?」

玄関先に一人居ない樹の姿を探せば、庭にある瓶に入った花と石の前で、しゃがみ込んで手を合わせているのに気付く。

「あの、そこは?」
「金魚の墓だ。真琴が昔、飼ってた」
「そういえば マコちゃん、飼ってたよね、小学校のとき。今でもここにあったんだ」

樹を挟むようにして怜と渚もしゃがみ込み、同じように手を合わせた。



「結構、本格的ですね!!」

「ウチは昔から、夏は家族でキャンプに行ってたからね」

真琴の家から持ち出したキャンプ用のアウトドア用品を眺めて、江が驚くように呟いた。目の前には居間を埋めつくすほどのアウトドア用品。

「人の家を勝手に置き場にするな」
「だって ハルちゃん家、広いし!」
「それに真琴の家から、近い距離だしね。持ち運びに最適な場所!」

持ちだした後は、そのまま遙の家へと直行した。居間でアウトドア用品や道具一式を広げれば、遙は不貞腐れ顔となるが渚と樹が告げられてしまう。
一通り揃っていると分かり、なんとかなりそうな感じに皆の期待が膨らみ始めるが、問題が一つ残っていた。あとは交通費かと真琴が呟く。何か交通手段は無いかと考える。


「ねえ、真琴!昔、笹部コーチが漁船持ちって言ってなかったっけ?」
「そうだ!それだ!」


“時に鈍感と機転”




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