「“今日がさいごの一日でーす”っか、可愛らしい字で」

“あと二日です。”と書かれていた紙を樹が破いていた。ちょうどその位置から、用具室から渚がビート板を手にして出てくるのに気がつく。

「もうこうなったら、ビート板で出場をしよう」
「それってルール的にありなの」

声を上げた渚の元に江が駆け寄れば、そこへ真琴が相づちを打つように告げる。

「意外とありかも!ルールとして明確に禁止されてないんじゃ?」
「いや、真琴!普通にダメだって!」

プールサイドの手摺に体を乗り出して、樹が真琴に声を掛けた。

「あれっ?樹ちゃん、早いね!」
「そんなー、イツキちゃんは、ルールを見たの?」
「一般論として。ルールは見ていないけど」
「やっぱりここは、ルールを調べて――」

そこへ聞こえてくる水の音に、渚、江、真琴はプールへと目をやった。真ん中のレーンで誰かがバタフライを泳いでいるのだ。樹は、一番乗りで来たつもりでいたが すでに彼が泳いでいたので、そのことは知ってはいた。

「バッタを泳いでいる」
「ハルちゃんかな?」
「でも、ハルはフリーしか」
「俺じゃない」

江の言葉に、ここにいる以外のメンバーで泳げるのは遙しかいないと思い、渚は口にするがそれは違った。
真琴が言うと同時に、遙が現れたので三人とも驚いてしまう。なぜなら、泳いでいたのが怜であったからだ。渚や江、真琴の三人が近寄れば、壁面に手を着いて怜が顔を出す。

「レイちゃーん!?――今、バッタを泳いでいなかった?」
「あと試していないのはバッタだけだったので、やってみれば泳げました」

そんな怜に対して、三人とも口を開けて驚いてしまう。江にいたっては「なんで?」と声を上げる。怜は小さく、それは“自由じゃない”と、呟いたが樹と遙の姿を見て、そのあとの言葉を飲み込んだ。


「なんで、ハルの方には紋白蝶が止まるのに、こっちには見向きもしないのかな?」
「さあな。樹には興味がないんだろ」
「あ、ちょっと!それって酷くない!もしかしたら、どっちとも雌の蝶かも知れないじゃん!雄がいればきっと!」
「それとこれが、どう関わるんだ?」


たわいもない会話をしている二人は、人差し指を立てて空を舞う二匹の紋白蝶を止まらさせていた。怜はその姿に微笑みながら、顔を渚たちに戻す。

「レイちゃん、何か言った?」
「……いえ、僕にもわかりません」
「なにそれー!!」
「まっ、結果オーライってことか」

泳げた理由が分からないと告げた怜に 江が口にすれば、良かったんじゃないかと真琴が笑った。


「ねえ、レイちゃん!もう一回泳いでみて」
「良いでしょう!」


渚の要望に、怜がバッタでひと掻き行なえば三人とも嬉しそうに声を上げた。怜が泳ぐと同時、蝶もまた空へと交差するように飛んでいった。



“空を飛べばいい”



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